中高生の「ブラック部活」は根絶すべき?AERA記事で波紋
中高生の「ブラック部活」が話題になっています。発端になったのは雑誌「AERA」の記事のようですが、今後ブラック部活の是非が問われ、根絶すべきだとの意見も上がってきそうです。この記事では「ブラック部活」の是非について考えてみます。
中高生の「ブラック部活」は根絶すべき?AERA記事で波紋〜その是非は〜
記事の内容をまずお伝えします!
ブラック部活 AERAが紹介したケースごとの是非
朝日新聞社が発行する雑誌「AERA」がブラック部活というキーワードで中高生の部活の現状を取り上げています。ネットで紹介された記事を読んでみました。
子どもに理不尽強いる「ブラック部活」の実情 丸刈りや白飯2杯ノルマも当たり前〈AERA〉
記事では具体的なケースが紹介されていますので、ひとつひとつ教育上の狙いや是非を考えてみます。
(1)高熱で寝込んでいたが合宿への参加を命じられたサッカー部の高校生
高熱を出した生徒に合宿参加を強要した監督は、自分は熱を出しても休んだことがないという言い分だったとのこと。微熱ならばともかく高熱ならば当然NGとなるケースです。
部活動は端的に言えば社会人の訓練となるため、勉強を差し置いて大量の時間を割くことが認められている部分があります。確かに会社員は微熱を押して出勤することがあります。顧客や同僚への配慮から休みが取りづらいためです。しかしどんなに熱心な会社員でも高熱ならば休みを取ります。最低限自己判断の部類になり、上司が出勤を強要すればそれこそブラック企業です。
高熱のサッカー部員に合宿参加を強要したケースは当然NGです。
(2)猛暑の全国高校選手権予選に慣れるために、わざわざ猛暑の地で合宿
このサッカー部員の母親やAERAの記者は問題視しているようですが、社会人の基準に照らせば問題であるとは言い切れません。接客業では、恥ずかしさを断ち切るために駅前などで大声を出す訓練は定番ですし、新入社員をあえて門前払いが続く厳しい新規開拓に臨ませるようなケースもあります。
必要以上に厳しい条件を設定するのは一見理不尽ですが、強い人間作りを目標とする部活動がそのような設定をしてもすぐさま間違っているとは言い切れません。
大切なのは、このサッカー部の顧問が猛暑地での合宿に備え、熱中症対策や現地での看護士の手配など、絶対に事故が起きないような努力を怠らなかったかどうかです。そのことを追求すべきであり、合宿地の選択にまで保護者が口を出すのは行き過ぎでしょう。
例えば普段1キロの遠泳を日課としている水泳部が、合宿で3キロの遠泳に挑戦するとして、保護者がクレームを入れ2キロにするとしたら滑稽な話です。その水泳部はボートを増やして事故対策を入念にすべきであって、保護者が自分の「かわいそう」という感性から口を出していたらきりがない部分もあります。
(3)合宿初日に遅刻をした部員がおり、全体責任で丸刈りにさせた
このケースでは顧問が丸刈りの命令を出したわけでなく、説教のあとバリカンを置いていったとのことです。記事では坊主頭の影響で水ぶくれになるほどの日焼けや熱中症が続出するとしています。
これは記事の書き方に問題がありそうです。「丸刈り」「連帯責任」という指導法が問われる事案にもかかわらず、水ぶくれや熱中症という悲惨な状況を強調し「丸刈り」「連帯責任」を悪と決め付けているようです。しかしこの事案で問われるのは、丸刈りになった生徒に顧問が帽子をかぶる指示を出したかどうか、水分補給など熱中症の管理をきちんとしていたかです。
「丸刈り」「連帯責任」という指導法は、周辺の出来事と切り離して論じられるべきです。ずいぶん雑な記事だとこの部分では感じました。
それはともかく、たとえブラック企業においても外見を変えさせる制裁は存在しないはずです。以前にワタミが経営するある高校で、渡辺美樹氏が教師の髪型が気に入らないとして「これは断髪式だ」と切らせたことが問題となりました。これは許しがたいと思った人が多かったでしょう。「丸刈り」の強要については、日本の中学校、高校では長い間認められてきましたが再考すべき問題でしょう。
(4)あるバスケ部では2年生が到着するまで1年生はボールを触ってはいけないので自主練習もできない
このケースについて、母親は「理不尽なきまりや習慣」だと言います。しかしながら、運動部を経験したことのある中高生はこのようなきまりや習慣は是非はともかく日常的なものだと思うはずです。
「高熱での合宿強制参加」や「丸刈りのあと対策をせず熱中症を出してしまった」ケースは異常だと思う中高生も、2年生が到着するまで1年生はボールを触ってはいけないというルールに関して、同じくらい異常だと思うケースは少ないでしょう。
2年生が部活に来るまでどころではなく、1年生は半年ほどボールに一切触れないという部活動は珍しくありません。小学校までの平等主義に比べれば「理不尽」であり、中学1年生は驚きます。しかし以前よりずいぶん緩和してきたとはいえ、日本社会は上下関係には非常にうるさいです。大学では時には先輩の理不尽な要求があるかもしれませんし、企業では上司の理不尽な命令はちょくちょくあります。
冒頭にも記しましたが、中学高校が勉強を差し置いて部活動に大量の時間を割くことを許しているのは社会人の訓練になるからです。中高生が将来会社に入って、急に上下関係や社会のルールと出会ってもうまくは行きません。最近は短期間で中途退職者する人が増えていますが、部活動で「予習」をしてあればこのようなケースは防ぐことも可能です。
※理不尽なブラック企業を許して良いという意味ではありません。
(5)合宿でどんぶり飯2杯のノルマがあり吐いて食べた/ごみ焼却場で制服を焼かれた
「合宿でどんぶり飯2杯のノルマがあり吐いて食べた」「ごみ焼却場で制服を焼かれた」。これらのケースはそれぞれ単独に顧問や学校の責任が追求されるべき話であり、中学高校の部活動全体がブラックかどうかを推し量るには無理があります。
ごみ焼却所で制服を焼くなどのケースは明らかに犯罪であり警察を入れても良いケースです。この記事は全体として極端な事例を集めて「ブラック部活」をセンセーショナルに演出する意図が強く、朝日新聞の雑誌としてはお粗末な気がします。生徒の健康を考えて部活を運営している顧問も数多くいますし、厳しいし理不尽なこともあるけれど乗り越えようとしている生徒も多くいます。
世の中から理不尽なことがなくなればそれは望ましいことですが、会社勤めにはやりがいと同時に理不尽なことも多くあります。部活動を経験することで、生徒が社会に出たあと苦労を乗り越える力をつけられるとすればそれは悪いことではありません。もちろん「健康に悪影響があってはならない」「生徒の基本的人権を侵してはならない」というのが大原則ですが、母親が「かわいそう」と思うことはNGとなれば、部活動は大きく変わることになって行きます。
ブラック部活 もう一度記事の問題点を整理します
(1)高熱で寝込んでいたが合宿への参加を命じられたサッカー部の高校生
誰がどう見てもNGに決まっています。この誰がどう見てもNGであるケースが冒頭に来ることで、この記事にあらかじめ意図した結論があることを感じました。
(2)高校のサッカー部で猛暑の全国高校選手権予選に慣れるために、わざわざ猛暑の地で合宿
母親が「かわいそう」だと思うのはよく分かりますが、正しい熱中症対策がなされていたかが問題の焦点です。部活がブラックかホワイトかではなく、顧問の安全管理の意識を問うべきケースです。
(3)合宿初日に遅刻をした部員がおり、全体責任で丸刈りにさせた
水ぶくれや熱中症の事例を出すことで、「丸刈り」「連帯責任」が異常だとの「読み」を導きますが、そういったイメージとは切り離して「丸刈り」「連帯責任」の是非が問われるべき事案です。「丸刈り」「連帯責任」の是非は検討してもよい課題だと思いますが、センセーショナルな書き方をすることで、読者が戸惑ってしまいます。
(4)あるバスケ部では2年生が到着するまで1年生はボールを触ってはいけないので自主練習もできない
この程度の理不尽はどの部活でもどの企業でも乗り越えるべきちょっとしたハードルとして置かれています。これをすぐさま問題だという方は、企業勤めの経験がないのではないかと勘ぐってしまいます。
(5)合宿でどんぶり飯2杯のノルマがあり吐いて食べた/ごみ焼却場で制服を焼かれた
ごみ焼却場で制服を焼くなど明らかな犯罪である警察を入れるべき事案です。ブラック部活の問題というより、これを為した人物の刑事責任を問うべき問題です。
以上「AERA」の記事には初めに結論ありきというムードを感じました。受験.netでは高校生に小論文の訓練として新聞かAERAを読むように推奨しています。AERAのこれまでの記事の蓄積とバランスを高く買っているからです。週刊文春でも週刊新潮でもなくAERAのみを薦めていますが、その判断には自信を持っています。今回の記事はややセンセーショナルにまとめ上げることで問題を提起した成果は評価できますが、やや粗い部分が目立ちました。
※ネット配信記事を読みました。本誌では違う書き方なのかもしれません。
全国の中高生やそのご父兄、そして中学高校の先生方が、「部活動によってどのような生徒を育てたいのか」という原点を忘れずにこの問題を考え、「健康管理」「安全管理」と問題を混同されないことを祈っております。
人気記事
- 志望理由(志望動機)書の書き方 ①学部・分野を選んだ理由編
- 小論文の書き方 たった1つの簡単な方法を実践してみよう【基礎編②】
- 小論文 文章が苦手で書き出しが出てこない人はコレ【超基礎編】
- 大学・専門学校入試の面接対策【2】 頻出質問例ベスト25 一覧と模範解答
- 大学・専門学校入試の面接対策【3】 志望理由(志望動機)と自己PRの攻略と例文
- 小論文の書き方・段落構成 には「たった1つの簡単な方法」がある【基礎編①】
- 志望理由(志望動機)書の書き方と例②大学、専門学校を選んだ理由編
- 大学・専門学校入試の面接対策【4】 長所・自己紹介と学校の呼び方
- 小論文の実際の書き方を身近なSNSの例文で理解しよう【基礎編③】
- 小論文の書き方・段落構成【応用編①】課題文型は要約が必要