ドラマ・下剋上受験の嘘と感想 元中学受験の塾講師が斬る

   

中学受験を扱ったテレビドラマ、下剋上受験が放映されています。この記事では、1つの家庭が主張する受験ノウハウが、受験の成功に本当につながるのかどうかを、率直な感想とともに記します。


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筆者は元塾講師で、大学受験がメインですが、中学受験の指導経験があります。現在は塾業界から外れていますので、利害に基づかない見方ができると自負しています。

(結論)指導経験なき受験ビジネスの嘘/下剋上受験

みかん

受験に成功させた親が「ノウハウ」を出版する。過去に何度も繰り返されてきた、ひとつのビジネスです。最近も、東大生を複数輩出した母親が、マスコミで持論を展開し、良くも悪くも波紋を呼んでいたことが記憶にあります。ドラマ化された下剋上受験も、同じパターンです。

結論から言えば、お子さんの中学受験に、下剋上受験の内容をそのまま取り入れてはいけません。塾の講師は、年に最低でも100人以上の中学受験指導に関わり、10年では最低でも1000人以上の中学受験に関わります。下剋上受験を書かれた親御さんは、たった1名の女子の指導経験から、指導法を発信しておられます。

考えれば簡単に分かることで、まず男子と女子は、一般に性格が異なるため、受験指導の方法が全く異なります。このことだけでも、下剋上受験の親御さんが、女子1名を指導した経験で、全国の中学受験生の親御さんに情報を発信することが、いかにハイリスクか理解頂けると考えます。

確かに、塾の講師は、営業的な部分を見据えたポジショントークに徹するという、限界点もあります。家庭でできることも、塾の講座が必要だと説明することもあります。しかし、それを差し引いても、なお男女、様々な性格、様々な学力の児童を1000人単位で指導してきた、塾講師の言い分を聞くほうが、実質的な成果につながります。

もしお子さんが中学受験に臨まれるとして、その子は、下剋上受験のお子さんと、同じ性別ですか? 似たような性格ですか? ほぼ同じ学力ですか? 文系理系のバランスもほぼ同じですか? 冷静に考えれば、ドラマ下剋上受験が、中学受験の正解でないことは、すぐにわかります。

ベテランの塾の講師であれば、お子さんと少しだけ話し、少しだけ指導すれば、過去に指導した類似の児童の人間像や中学受験への道のり、結果がすぐに思い起こされます。1000件のデータベースである塾講師と、1件のデータベースである下剋上受験の、どちらが真摯な姿勢で継続してきた「本当の研究」であり、講師同士のチームワークで完成された「正しい指導ノウハウ」であるかは、明らかです。

あなたは庭でトマト1つを育てただけで、農家志願者を集めて、作物の飼育について指導しますか? 下剋上受験を正しく利用するには、うのみにするのでなく、数多くの保護者の体験談の1つにすぎないという心構えが重要です。

ドラマ下剋上受験・第1回の感想

ドラマ下剋上受験は、全日本統一小学生テストの結果を見るところから始まります。結果は最下位に近い順位でした。親が中卒で、子はテスト最下位。非常にありがちな展開が、目に浮かびます。

ドラマ下剋上は、父親が仕事先で、中卒であることでハンデを背負う場面があります。有名大学出身だという人々が登場し、学歴を理由に父親を排除するのです。このような設定自体が、もはや前時代的ではないでしょうか。現在は、学歴社会が完全になくなったわけではありませんが、決して20世紀のような状況ではありません。下克上受験が示す前時代的な世界観が、全国の親御さんを通じて、中学受験に臨む子供たちに、歪んだ形で伝わらないように祈るばかりです。

お子さんにとって大切なことは、誤った学歴社会像を前提に、人に勝つためだけにがむしゃらに勉強することではありません。効率化、IT化、そして人工知能化して行く今後の社会では、「学校名」だけを獲得して行くようなキャリア形成は意味がありません。中学受験にどう臨み、どんな力を得て行くのかが焦点です。ドラマ下剋上受験は、その点で全国の親子双方に誤解を与える可能性があります。

また、ドラマ下剋上受験は、塾に行かず家庭教師も使わないというスタイルで、家計が厳しい家庭に夢をふりまくスタイルになっています。テレビドラマに感化された家庭で、塾を選択しないケースも出てくるでしょう。中学受験に塾や家庭教師が必須とまでは言いませんが、高校受験や大学受験に比べて、必要性が比較的高いのも事実です。結局、家計が安定した家庭は、子を塾に通わせつつ、ドラマからうまくヒントを盗み出し、家計が厳しい家庭は、ドラマをうのみにして失敗してゆくのかもしれません。筆者は、塾業界に生計を依存しておらず、何のしがらみもありませんが、極端なスタイルが普遍化されてゆく危惧を感じます。

ドラマ下剋上受験に登場した塾の講師は、1番下のクラスしか無理だ、東大を狙うのは厳しい、5年生からでは遅いなど、保護者を失望させ不安を煽るだけの塾講師像を印象付けます。しかし、このような人間性に欠く講師は、業界の一部に過ぎません。おそらく実際に、これに近いことも多少はあったのかも知れず、嘘とまでは言いませんが、物語の進行に都合が良いように、大いに脚色されているはずです。中学受験の保護者は、ドラマ下剋上受験に、フィクションとは言え、ある程度リアリティやノウハウを求めています。実話をベースにしているとPRしつつ、あまりにも御都合主義の設定は、中学受験や塾業界への誤解を招くものです。家庭学習が合う生徒もいれば、塾での集団学習が合う生徒もいます。一方的に塾=悪、保護者の教育行=正、と描く設定は、無理があるでしょう。

ドラマ下剋上受験は、学歴で多くが決まる、天井が設定されるということを、執拗に繰り返します。この考え方が主流だったのは、20世紀まで。いまから20年近くも前の話です。大企業の倒産や、職人さんなど個人が脚光を浴び、企業の人事採用も洗練されてきた現代には、およそ当てはまりません。合理性を重んじる有名企業ほど、学歴だけで採用することは、なくなってきています。

(まとめ)ドラマ・下剋上受験の嘘と感想

  • 1人のデータベースしか持たない保護者の指導経験を、ノウハウ化するのは危険。
  • 学歴感があまりにも前時代的で、全国の親子に誤解を与える可能性。
  • 効率化、情報化、人工知能化が進む社会で生きる、子どもたちの受験は、プロセスのなかで実質的な能力を得てゆくことが主眼。学歴競争の視点は、完全に時代遅れで、子の人間性に悪影響。
  • 塾を一方的に悪と決めつける描写は、多少なりともノウハウを求めている視聴者層に対し、責任を果たしているとは言えない。
  • あくまで、たった1家庭の経験談を聞くスタンスで臨むことが重要で、類書に当たり、塾側の見解も参考にすべき。


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