小論文の教え方 予備校教員向け研修のポイントを公開

   

2016年夏に大手予備校主催の教員・講師向け小論文研修(指導法、教え方等)を受講しました。そのさわりを紹介しつつ、感想や意見を記しました。

※御礼を兼ねて予備校名や講師名の明記も考えましたが、長時間に渡る講義の一部を再現したものであり、話者講師の意図を完全に再現していない恐れもあります。そのため明記を控えさせていただきました。


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学術論文の執筆プロセスから学ぶこと

本

文学の学術論文を執筆する場合、まず研究室の教授の専攻範囲内でテーマを決めてゆく。これは課題が広めに提示される受験小論文を準備するプロセスと似ている。

学術論文執筆では、教授が指導可能な領域という現実的な縛りが背景であるのに対し、受験小論文では「課題発見力」を問うという目的があると思いました。

学術論文ではつぎに原典にあたり、さらにそのつぎに先行論文を研究し参考になる部分を考えつつ、全くの模倣にならないよう内容を記憶しておく。

学術論文ではまず原典に当たるという点が重要です。受験小論文では、試験場で時間内に書くという制約から原典に当たるという点が疎かになってしまいます。研修で例示された慶応義塾大の小論文では、膨大な課題文の中に英文が含まれていました。この英文のなかには、出題意図に沿うためには必ず利用すべき部分があり、原典に当たるという発想を試験官がテストしようとしているようです。やや高度ですが、原典に当たることの重要性を教えておいても良いかと思いました。

そして先行論文に当たるというプロセスは非常に示唆に富みます。つまり論文は新しい見地が含まれなければ世に出してはいけないということです。受験小論文においても、課題に対する新鮮な(ある意味で反常識的な)切り口は、説得力が伴うという条件がつきますが、独創性に関し高い評価につながるはずです。

そもそも現代文の教科で学ぶ評論(説明的文章)は、基本的には反常識的な結論を提示しています。受験小論文を学ぶ生徒に、テーマに関する既存の意見(一般論)をよく熟知させておき、説得力が伴いそうならば新しい見地を示すべきだということは含ませておいても良いと思います。しかしながら、小論文に添付される課題文は、それなりに高い説得力を持つものが多くあります。ただただ、独自の意見を出すことに執着してしまうと、課題文に「勝てない喧嘩」を売る小論文となり、評価を勝ち取れない可能性があると思います。そのため、受験生には次のようなスタンスが必要ではないかと思いました。

(1)課題文中に原典らしきものが提示された場合は、特に注意して読む。

(2)課題文自体も丁寧に読む。同時に提示されたテーマに関する世間の多数意見を思い起こしつつ整理する。

(3)できれば、課題文や多数意見と異なる見地から結論を出す。その際には、課題文を論破しようと試みボロを出すリスクを取るよりは、課題文をそれなりにまとめつつ別の角度で書くという打ち出し方が良さそう。

(4)多数意見に対する反論を思いつかない場合は、多数意見に乗る。ただしそれを立証するような、具体的な理由や体験談に新味を出しつつ、多少は問題点を提示しておく。

学術論文の場合、結論の決定は、原典や先行論文を読みながら自然に結論が出るのを待つか、あるいはある程度結論ありきでプロセスを進めていく。

先入観を持たず、演繹的に結論を導いていくの本来の学術論文の姿かと思います。しかし講師によると、普段の小論文の練習でこのプロセスを踏むと、生徒の調査力や読解のスピードなどに左右され、中期的にはカリキュラムが進まない傾向があるそうです。そのため講師は、ある程度結論にあたりをつけ材料を探していくという、帰納的な方法が効率的ではないかと話していました。

これは、現在の世の中の議論がほとんど「帰納的な方法」で行われていることを考えると、生徒にとってマイナスの面もあると感じました。

例えば、舛添元都知事の無駄遣いの問題では、誰しもが舛添憎しの結論で粗探しを進めました。しかしながら、例えばやや高齢になった舛添氏が、公用車で公務の連絡を進めながら湯河原へ移動していたのは、100%問題だとは言い切れません。もし企業経営者なら時間をお金で買うのは当たり前のことです。都知事はあくまで公僕の延長線上であって、企業経営者ではないということですが、都知事は国際政治学者の舛添氏に経営の手腕の導入を期待して選出した面もあったはずです。

「帰納的な方法」が体に染み付いてしまうと、生徒が将来市民として判断する場合に悪い癖が出てしまいますし、ビジネスマンとしても前例踏襲となり新境地を開くことはできません。そのため、あくまで今回は締め切りもあるため結論ありきで調査して欲しいが、これは正しい方法ではないのだよという含みをもたせても良いと感じました。

学術論文で先行論文に当たるということは、受験小論文では既知の事実の学習にも通ずる。この学習範囲は、学習指導要領の範囲内で良い。

大学での研究にも通ずるような高度な題材が受験小論文で出題されることもあります。これに対して講師は学習指導要領の範囲に留めるべきだと言います。大学入試が、そもそも高校学習指導要領の習熟度を探る趣旨を持つ以上、それ以上の知識が求められることもないし、合否を決める点差にはならないだろうということのようです。

例えば法学の凝った課題が出題される大学を受験する学生に、大学生が学ぶような論点を提示した参考書を見かけたことがあります。しかし、その前にまずしっかりと現代社会、政治経済の教科書に書かれていること、あるいは便覧に書かれていることを理解できているかが大切だということです。これはその通りだと思いました。大学教授の立場からしても、受験テクニックとして大学履修範囲の法律や条文を独習で記憶している生徒よりは、教科書が取り上げる憲法や各種人権宣言などをしっかりと押さえている生徒の方が、研究者としての将来性を感じるでしょう。少なくとも大学履修範囲の知識を披露できた受験生に大きく加点されることはないと言えるでしょう。

受験小論文指導にあたって、反社会的な内容を特に教える必要はない。

教育基本法の前文に「公共の精神」とあり、第1条に「平和で民主的な国家及び社会の形成者」の育成とあります。高校、大学の趣旨からしても反社会的な内容(例えば人を殺める権利など)を生徒に教える必要はないということです。

学部別に見ていくと、周知の通り医学部、教育系は即アウト。ほかの学部の教授も、その生徒を自分のゼミ(研究室)に迎えたいかどうかと考えると、歓迎はしないという意見が多いそうです。なお、私見ですが文学部、芸術学部、社会学部においては、若干の反社会性も必要だと思います。あくまで、常識を踏まえた立場から実験的に記しているのだとと伝えつつ書くことが大切でしょう。

受験小論文の字数制限について

大学の教授にヒアリングした感触では、ハイレベルな大学ほど字数にこだわらないのではないか。例えば、慶応義塾大では図表を含めて○○字以内とうような字数が曖昧な出題も見られる。設問に的確に答え、的確な立証が済んでいれば字数が少なくても良いのではないか。逆に、ある種不真面目というかいい加減な大学では、一律に減点する場合もあるようだ。

この内容はあくまでも講師が知り合いの教授にヒアリングした内容のため、統計的なものではないということです(大学入試では、センター試験を除き正解すら非公表が原則ですので、採点基準は断片的に推し量るしかありません)。

筆者は高校生には字数は9割が望ましいと教えています。極端な事例と思われますが、制限字数に対し95%の分量でも若干の減点を行っている採点票を目にしたことがあるためです。字数の扱いは大学によってかなり異なるため、生徒に対しては9割、少なくとも8割程度の指導が望ましいと感じます。同時に重要なことは、字数を増やすために予定した結論(最終段落)の後に付け足しをしてはならないと教えておくことです。小論文の添削をしていると、このような字数稼ぎの答案が多く見られますが、配点の高い「論旨の一貫性」「結論は明確か」といった基準に抵触するため、かなりの減点を食らう可能性があります。

生徒には、字数制限の2倍の量を書いて縮める訓練をさせると良い。

プロは文章を書くときに、頭の中には(あるいは下書きには)完成稿の数倍の分量の素案があります。その後、無駄な論や必要のない例をカットし、さらに無駄な文を切り、文単位でも極力圧縮をかけていきます。

しかし生徒によっては、思うに任せ会話文のように無駄が多い文章を提出してきます。こういった生徒の文章には、繰り返しや冗長な言い回しが多く、論の流れが追いづらくさらに内容も薄くなります。このタイプの場合、提出された小論文を半分にさせる訓練が有効かと思います。一方、当初から無駄のない筋肉質な文章を提出してくる生徒もいます。

個人差がありますので、指導者が指導案をよく練る必要があるところです。

(1)小論文学習の初期  …  400字程度で書かせた文章を、より詳細な記述を加えて600字程度に拡張させる訓練が、書くことに慣れていない生徒に有効なことがあります。ただし、冗長さに傾かないように、3段落構成を4段落構成にさせるといった工夫が必要です。

(例)小学生にスマートフォンを与えるべきかどうかを書く。初回は理由や体験談を1つ(1段落分)の3段落構成。2回目は理由や体験談を2段落分に増強した4段落構成。

(2)個別の課題  … 冗長な文章を書く傾向がある生徒は決まっています。該当者には3分の2、あるいは半分程度に縮めさせる訓練が有効です。ここでは、単に文章の冗長さがターゲットになります。

(3)小論文学習の完成期  …  全員が字数制限の2倍の文章を書き、半分に縮めるような訓練が有効かと思います。ただし難関大や高めの倍率が発生している入試の受験者に絞っても良いかもしれません。

深い小論文を書けない生徒に欠けているもの (1) 通時的な発想

例えばストーカーはもちろん犯罪だが、源氏を読むと垣間見(かいまみ)として登場している。何度も和歌を贈ることは、現在ならストーカーだ(笑)。また、最近は歩きスマホが問題になっているが、昔ならこの行為は尊敬の対象だった。スマホの代わりに、本を読みながら道を歩いていたのが、勤勉の学徒の象徴、二宮金次郎だ(笑)。

高校生が小論文を書くとき、題材を表面的に受け止め、一般論に近い考察にとどまってしまうことが多くあります。そのときに、古典や歴史の知識を生かせないかという提案です。現代の高校生は通時的な発想に欠けているとのことです。

例えば17〜19世紀の江戸では、待遇の悪い商家の奉公人が、主人の許可なく持ち場を放棄し伊勢神宮へ向かう「おかげ参り」という慣習がありました。東海道では宿や食べものの施しが受けられ、江戸へ帰った後もおとがめなく仕事を続けられました。このことを知っていれば、ブラック企業あるいは若者の戦争法反対のデモについて考察するヒントになるかもしれません。戦争法反対のデモの際には、就職活動に不利になるという意見が若者の間で多く出ました。江戸時代と現代に、どのような共通項と差異があるのでしょうか?

欠けているもの(2) 聞けば分かるのだが、自ら気づくことがない

小論文のなかに「精神的な豊かさ」という曖昧な語彙を使う生徒がいた。どういう意味かと尋ねても、分からないという。しかし、豊かさとはどういう意味なのか(what)、なぜ精神的な豊かさが大切だと思うのか(why)などと問答を繰り返すと、不意に「精神的な豊かさというのは、社会的なストレスがない状態です」と深い答えが返ってきた。生徒は聞けばわかることばを自発的に発することができない。啐啄の機(※)が必要だ。

※そったくのき。ヒナが卵を内側から叩くときに、親が呼応して叩いてやること。

小論文に限らず文章において、分かった風の言葉を書くことは非常に危険です。指導者が「大丈夫かな?」と感じたところを、個別に掘り下げていくことが重要とのことです。その際に、ビジネスでも用いられることがある、whatやwhyの質問を用いていくとのことです。

この方法も効果的だと思いますが、私は体験を掘り下げていく方法でも良いのではないかと思いました。

いつ精神的な豊かさを感じるの?「新巻の漫画を買って部屋に持ち込んだ瞬間です」逆に精神的な豊かさから程遠い瞬間は?「テスト前日に無理やり暗記をしている瞬間です」他には?「えーと、風呂掃除。毎日当番になっているから」共通項は?「やらされている感」じゃあ精神的な豊かさはその逆?「自分で選んで誰にも邪魔されないこと!学校や家で押し付けられたことは、豊かじゃない!」

上の問答のように教師は、具体と抽象を道具に深めていきます。特に具体と抽象の発想は、多くの生徒にとってブレイクスルーとなるものであり、重視が必要です。
image研修会でも講師は上のような図で、具体と抽象の発想を強調されていました。若手教師の方にはピンと来ないかもしれませんが、多くのベテラン講師は具体と抽象に相当の時間を割いています。しっかり教え込めば、見違えるような構成の文章が提出され驚きます


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意外に知らない豆知識

一 高校生が文章を書くスピードの目安は、100文字当たり5分であること(600字で30分)。

一 小論文のテキストやプリントを作成する際には、教科書体のみを使うべきであること(明朝体は、例えば「しんにょう」が正しく表記されず、教材通りに書いたのに減点という事態が起きうる)。

一 箇条書きの正しい表記は、この枠内で示したように「一、……こと」の形式を取ること。

一 正しい表記の基準は、『国語表現』の指導書や文化庁の見解に準拠すること。

一 要約とは本来小説などのあらすじを言うのであり、評論をまとめたものは、要旨(趣旨、論旨)と呼ぶべきであること。

小論文の段落構成

・序論 … 自分の意見を明示する。

・本論

① そう考える理由を述べる。
② 反対意見の想定(たしかに、~という面がある/また、~という考え方もあろう)
③ 自説のもっとも説得力のある理由を述べる(しかし、~/ただ、~)

・結論 … 自分の意見を再度明示する

上記が講師による段落講師の提示です。

・序論は、実質的に結論となっていますが、序論をこのような意味合いで使う先生は珍しくありません。

・本論に関しては展開を縛りすぎだと感じました。二項対立型の小論文問題に特化した方法論であり、例えば「課題文を参考にあなたの地域の課題を論じなさい」のような、問題が発生していることが争われないタイプの小論文問題に対応できません。また、学年全体が一般入試を目指す高校ならば問題がないですが、少しでも推薦AO入試の志願者がいた場合、彼らには志望理由書、自己PR文はまた別の段落構成だと教えなければなりません。

・講師は徐々に型を崩していくことを提唱されており、上の構成を絶対視しているわけではありませんが、私はより本質的な段落構成をこのサイトでは提唱しています。

小論文の書き方・段落構成 たった1つの簡単な方法

小論文の採点基準

 ・課題への回答が適切か

・わかりやすい論の進め方か(論点が明確/知識に偏重していない)

・表現や語句が適切であるか(文体の統一/楷書体で文科省の指定通りの表現)

・結論、その根拠、具体的な事例が含まれていること


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