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公認心理師ってなに? 将来性や臨床心理士との比較を分かりやすく

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心理学の分野を希望する方にとって気になるのが、新たな国家資格の公認心理師。公認心理師は、どのような資格で将来性はあるのでしょうか。これまで主流だった、臨床心理士と比べながら、わかりやすく説明してゆきます。

  • 筆者:早大卒。予備校講師を経て、現在は高校内講話の講師(出講年80回、歴5年)。分かりやすい説明で定評。この記事は、東大大学院・下山晴彦教授による、2019年春季の講話をもとに構成しています。

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公認心理師の特徴は「国家資格であること」ではない!

民間資格である臨床心理士に対し、公認心理師の最大の特徴は、国家資格であることとよく説明されます。しかし、この説明は必ずしも適切とは言えません!

エビデンス・ベイスド・プラクティスとは?

理系ジャンルで、仕事や勉強をしている人におなじみの言葉が、エビデンス。証拠という意味です。ネット上の掲示板などでも、なにかの主張に対して、エビデンスはあるの? というツッコミが入ることが、あります。

新しい資格である公認心理師の資格。その最大の特徴を一言でいうと、エビデンス・ベイスト・プラクティスつまり、統計的根拠に基づいて悩みを抱えている人に治療を加えることです。

  • これまでの日本の心理学 … フロイトやユングの影響を受けたものなど、各学派独自の考え方を重視する療法や、良い意味で素人(しろうと)性を重視するカウンセリングを行っていた。
  • 公認心理師が目指す心理学 … これまでの日本の心理学の蓄積を踏まえつつも、世界水準である、統計的な根拠をもとにした体系をめざす。

当面は2つの資格が共存する

公認心理師資格を取得するなら、大学、さらに大学院で、指定された科目を学び卒業することが基本です。臨床心理士の取得と同様、最低6年かかるという点は変わりません。ただし、公認心理師には、大卒後定められた実務経験を積むルートも用意されています。

今後も、民間資格である臨床心理士の資格も引き続き存続し、これまでの実績や信頼感から、資格を取った人の活躍も期待されます。公認心理師は、資格を作り上げて行く過程で、臨床心理士の関係者とも、十分な話し合いが持たれ意見を聞き入れていますので、臨床心理士を排除する狙いがある訳ではありません。

そのため、臨床心理士は国家資格といえども、すぐに圧倒的に優位に立つことはなく、当面は2つの資格が共存することが予想されています。


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公認心理師の将来性を測る、うつ病の現状

公認心理師の将来性はどうなのでしょうか? インフルエンザから生活習慣病まで、体の病気は多いけれど、精神疾患はそれほど多くないのでは?と思う方もいるかも知れません。

あなたの周りには、うつ病にかかった人がいるでしょうか?

教育業界では、うつ病にかかる人が比較的多い印象です。出勤時間に職場に現れず、自宅に電話をすると、朝起きられず体調不良で欠勤と分かります。体調が良い時はいたって普通ですが、体調の悪い日に自宅を訪ねると、顔色がひどく声も出ず、ほとんど会話にならず驚きます。

うつ病人口は、東京23区の人口の半分も??

うつ病は、平成26年の厚生労働省患者調査によると、18年前の実に3.5倍にも増えています! 人数はなんと111万6千人。これは、政令指定都市である仙台市の人口を上回ります。

そして、公式につかめていない患者数を含めると、500万人を超えると言われています。横浜市の人口を超え、東京23区の人口の約半分です。背景には、労働環境の悪化などがあるのかも知れません。

このことだけを見ても、心理職の重要性は明らかであり、公認心理師の活躍の場は、大きく広がる可能性を秘めています。

社会に十分に理解されていない、うつ病の実態

むしろ身体的な変化がメインといえる病気

現在、うつ病は、ごく少数の心の弱い人がかかる、落ち込んだり意欲が低下したりする病気と考えている人もいます。

しかし、実際にうつ病にかかると、頭痛や微熱の連続、息苦しさや胸の痛み、胃のむかつきや吐き気、全身の疲れ、睡眠障害など、無数の症状が現れます。うつ病とは、むしろ生理・身体的変化がメインといえる病気なのです。

時間が経つにつれ悪化してゆく病気

うつ病にかかると、気持ちの変化、行動の変化、考え方の変化が相互作用し、悪循環から抜け出せなくなり、悪化してゆきます。

  • 気持ちの変化 … 落ち込んだり意欲が低下したりする
  • 行動の変化 … 人づきあいが悪くなる、本や新聞を読まなくなる、質問に答えられなくなる、約束が守れなくなるなど。
  • 考え方(認知)の変化 … 自己嫌悪、罪悪感、悲観、絶望など。

この気持ち、行動、考え方の3つの変化は、互いに影響を及ぼしあい、悪循環は続いてゆきます。そして、心が弱い、つきあいが悪いなどの他者の誤解からくる批判が、この悪循環を強化してゆくのです。

うつ病患者の7割が適切な治療を受けていない

いまの日本は、格差が広がっているとはいえ、世界的に見れば豊かな社会になっています。

もし冷蔵庫に食料があり、着る服があり
頭の上に屋根があり、寝る場所があるのなら・・・
あなたは世界の75%の人たちより裕福で恵まれています

『世界がもし100人の村だったら』

しかし前述のように、うつ病は、18年前の実に3.5倍にも増えています(平成26年の厚生労働省患者調査 )。抑うつ(気分が落ち込んで活動を嫌っている状況)の傾向を示すのは、小学生で13人に1人、中学生で4人に1人もいます! 引きこもりは54万人、いじめの件数は22万件……。日本では、表面的な豊かさの陰で、想像以上に精神を病んでいる人が多いのです。

知っておきたい「サービスギャップ」

心理の仕事をめざすうえで必要な言葉の1つに、「サービスギャップ」があります。あまり知られていない言葉ですが、知っておくと差がつきます。サービスとは、サービスが良い悪いという意味ではなく、供給を意味します。

例えば、インフルエンザ。もしインフルエンザにかかったかなと思えば、ほとんどの人が医者に行きます。確実な診断を受けられ、すぐに効く薬をもらえるからです。また、周囲の人もそろって、医者に行くように勧めます。この状態を、サービスギャップがないと言います(適切な医療の供給がされている)。

一方、うつ病の場合は、どうでしょうか?

  • うつ病にかかったことに気づかない。
  • 仮に気づいても、ほんとうに医者に行けば良くなるのか、薬漬けにならないかとの不安を持つ。
  • 周囲の人が、単にやる気の問題だから頑張ればよい、心が弱いのではないかなどのらく印(スティグマと呼ぶ)を押してしまう。

このような背景から、うつ病患者は適切な医療の供給を受けにくくなっています。これをサービスギャップが大きいと言います。

サービスギャップ:問題を抱えた個人が、専門的な治療と援助が必要とされる状況に置かれているにも関わらず、そのサービスが供給されていない現象

Stefl&Prosperi,1985

病院での適切な治療がされていないことも、サービスギャップ

うつ病患者がうつに気づき、病院の予約をし、周囲もそれに賛成した。ここまではサービスギャップがないと言える状況です。しかし、病院で世界水準で見て正しい治療法が供給されなければ、この段階でサービスギャップが生まれてしまいます。

東大大学院・下山晴彦教授は、日本の精神障がいへの治療には、海外と比較すると、次のような問題があるとします。

  • 医者依存が強く、心理援助職の活躍が過少。
  • 医者は、多剤多量投与に頼る面がある(根拠:Frances,2013)。
  • カウンセリング技法、心理療法(精神分析)の影響が強く、認知行動療法が普及していない。
カウンセリング技法対話を通じて心のストレスを弱め、問題解決をめざす技法。うつ病など以外に、就職や恋愛・結婚の悩みなども対象。ボランティアが参加するなど、専門性だけでなく、素人(しろうと)性にも重きが置かれる。
心理療法潜在意識の存在を提唱するフロイトが創始した、精神分析の手法に代表され、学派ごとに理論が異なる。大学ではなく、私的な研究所を中心に教育訓練が行われてきた。
認知行動療法さまざまな出来事と接して生まれる自動思考が、感情や行動に影響を及ぼし、心にストレスを与える仕組みに着目し、認知のパターンを修正してゆく。専門医が担当した場合、保険適用。

認知行動療法の普及が期待される

東大大学院・下山晴彦教授は、うつ病には、抗うつ剤と認知行動療法の組み合わせがベストと言います。しかし、現在の日本では心理援助職が不足し、医師は自身の知識の範囲内で行える、薬剤投与に依存しているのが現状です。

認知行動療法は、すでに大量のエビデンスが存在し、欧米では主流となっています。日本でも、認知行動療法の普及が期待されます。

(参考)認知行動療法のメリット

  • 効果、持続、安全性に関する大量のエビデンス
  • 技法が習得しやすい(患者自身が習得することも可能)
  • インフォームドコンセントとの親和性(明確な目標、回数の限定)
  • (薬剤ではないので)副作用がない
  • 欧米では主流のメンタルヘルス支援技法
  • 日本でも2010年4月に保険適用(ただし医師によるもののみ)
  • 適用範囲が、禁煙・ダイエット・うつ予防・日常悩みなど多岐に及ぶ

日本では、精神障害を患っている人の8割が、適切な治療を受けていない

説明してきたように、代表的な精神障がいであるうつ病にかかった場合、多くの人は適切な治療を受けていません。

  • うつ病にかかったことに、本人が気づかない。
  • 仮に気づいても、ほんとうに医者に行けば良くなるのか、不安を持つ。
  • 周囲の人が、やる気の問題だから頑張ればよいなどのらく印(スティグマ)を押してしまう。
  • 医者依存が強く、心理援助職の活躍が過少なこともあり、医者は、多剤多量投与に頼る面がある。
  • 抗うつ剤+認知行動療法という、世界的標準の治療が受けられない。

うつ病を含む精神障がいで、適切な治療を受けている人の割合は、日本では20%に留まります。これは、米国の36%、英国の31%、EUの26%に比べ、明らかに低い水準です。ここに公認心理師の必要性があり、将来性が見込まれるのです。

公認心理師法の第2条と仕事のイメージ

公認心理師法は、2015年9月に成立・公布されています。

第一条 この法律は、公認心理師の資格を定めて、その業務の適正を図り、もって国民の心の健康の保持増進に寄与することを目的とする。

衆議院ホームページより

公認心理師法の第一条では、公認心理師の資格を決め、国民の心の健康のサポートを実現することが示されています。

第二条 この法律において「公認心理師」とは、第二十八条の登録を受け、公認心理師の名称を用いて、保健医療、福祉、教育その他の分野において、心理学に関する専門的知識及び技術をもって、次に掲げる行為を行うことを業とする者をいう。

衆議院ホームページより

第二条では、公認心理師の業務を列挙しています。

  1. アセスメント(=評価・査定)技能 … 心理に関する支援を要する者の心理状態を観察し、その結果を分析すること。
  2. 本人支援技能 … 心理に関する支援を要する者に対し、その心理に関する相談に応じ、助言、指導その他の援助を行うこと。
  3. 関係者支援 技能 … 心理に関する支援を要する者の関係者に対し、その相談に応じ、助言、指導その他の援助を行うこと。
  4. コミュニティ支援技能 … 心の健康に関する知識の普及を図るための教育及び情報の提供を行うこと。

これにより、公認心理師の仕事の内容が、イメージできます。

公認心理師の求人の一例です(求人ボックスより。最新の求人ではありません)。

公認心理師になるために学ぶこと

心理学には、大きく分けて2つの領域があります。日本の心理学は、従来は実践心理学が中心でした。しかし、公認心理師は、学術心理学も学ぶことになります。

  • 学術心理学 … 科学的研究を行う。
  • 実践心理学 … 専門的実践を行う。

公認心理師を取得希望者は、学術心理学(心理学概論)として、神経・生理心理学、知覚・認知心理学、学習・言語心理学、感情・人格心理学などを学ぶ必要があります。このなかには、統計の知識が必要なものも含まれます。

一方、日本では長い伝統のある実践心理学(臨床心理学概論)として、心理学的支援法、健康・医療心理学、教育・学校心理学、産業・組織心理学なども学んでゆきます。

広い視野が求められるうつ病などの治療

うつ病は、心(心理)の面だけをケアすれば良いわけではありません。社会生活のストレスが気分の落ち込みを強化し、気分の落ち込みが社会生活に支障を来たすという相互作用があるからです。同時に、生物としての脳の機能低下も、この悪循環に加わり、相互に作用しながら、うつを悪化させます。

精神を病んだ人を、チームを組んで3つの面からサポートすることを、生物-心理-社会モデルと呼びます。

  • 生物 … 脳、神経、遺伝、細胞。従来は医療職、看護職が担当してきたが、公認心理師がこれに加わる
  • 心理 … 認知、信念、感情、ストレス、イメージ。心理職(公認心理師、臨床心理士)が担当する。
  • 社会 … ソーシャルサポート、組織、制度、経済、文化。福祉職、教育職、行政職が担当する。

このような生物-心理-社会モデルを実現するために、公認心理師は、生物や社会のことも学ぶこととなります。

公認心理師の6年間と卒業後

公認心理師になるには、大学の4年間の学部教育で、エビデンスベイスド・アプローチの基本を身につけつつ、各自の研究活動を進めます。つぎに大学院の2年間の修士課程で、チーム・アプローチを学びつつ、実践活動を行ってゆきます。そして卒業後は、コミュニティ・アプローチとして、学校、企業、障がい者施設、病院などそれぞれの持ち場で、専門活動を行ってゆきます。

従来型の心理療法、カウンセリングとは?

公認心理師は、国際的に主流となる、科学的な実証に基づいた臨床心理学を学んできます。従来の心理療法やカウンセリングの手法が否定されるわけではありませんが、専門性や科学者としてのあり方がより強化されます。科学性と、実際に患者と向き合う実践性を備えた立場が求められてきます。

  • 心理療法 … 潜在意識の存在を提唱した、フロイトが創始した、精神分析の手法に代表され、学派ごとに理論が異なる。大学ではなく、私的な研究所を中心に教育訓練が行われてきた。
  • カウンセリング … 人間性を重視した活動が特徴で、心理学にこだわらない幅広い領域に広がるもの。ボランティアが参加するなど、専門性だけでなく、素人性にも重きが置かれる。

【まとめ】公認心理師ってなに? 将来性や臨床心理士との比較を分かりやすく

以上、公認心理師について、臨床心理士と比較しながらまとめてきました。

見てきたように、ストレス社会が進むなか、うつ病などの精神疾患は、気づかない、通院しない、効果が出にくい(心理職がいなければ薬を出すしかない)の3拍子で、なかば放置されているような現状です。これは、体力があっても働けない人を作り出すことにもなり、今後の労働人口の減少を、さらに悪い方向に進めてしまいます。

その意味では、国のバックアップのなか、社会全体でうつ病などの精神疾患を、誰でもかかる風邪のようなものとして、ある意味気軽に公表でき、気軽に治療に行けるよな雰囲気が作られるはずです。そのとき、病院やさまざまな施設には、心理職が必要。需要は十分にあるはずです。

さらに、原則大学院卒業が必要であり費用がかかるうえに、学ぶ内容もやや理系寄りな部分があり、ハードルが高い分、参入者は限られ有利な面もあるかと思います(簡単に取れる資格は、すぐにライバルだらけになってしまいます)。

ただし、6年間の勉強はハードであり、理科や数学的な部分への適性も含め、自分が本当にやってゆけるのかの確認は必要です。当たり前のことですが、心理学は、雑誌に載っている心理テストのようなものではありません。特に今後は、生物的な知識も備えた、医者や看護師に近い存在となってゆくはずです。

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