入試のグループディスカッションのテーマ、流れ、落ちないコツを、元予備校講師がわかりやすく説明いたします。
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グループディスカッションで落ちる受験生
グループディスカッションは、全然経験がなくて心配なのですが、どんな人が落ちるのでしょうか?
はい。まずは、ひろゆきさんタイプが落ちやすいです。グループディスカッションは、議論で目立ったり、意外性を狙った意見を述べたり、相手を説き伏せたりするパフォーマンスは、あまり評価されません。
現在の大学入試では、多様な人々と協働して思考を深める能力が重視されていますので、ひろゆきさんタイプは、(あくまでメディアを介したイメージですが)正反対と言えます。
だからといって、自分の意見を全く出さずに、調整役に徹するのも問題があります。大学入試は、名司会者を採用するもののではないからです。
また、意見を述べる場合には、説得力と根拠(確かな理由、専門家の見解、データなど)が必要です。エビデンス(根拠)がないことを主張する受験生も、落とされる対象です。
的確な根拠を述べるためには、国際系の学部ならウクライナ情勢のように、学部に関する基本的な知識や、時事問題の知識も必要となります。
グループディスカッションで落ちる受験生
- 自己主張の強いひろゆきさんタイプ
- 名司会者に徹し、自分の意見を全く出さないタイプ。
- 発言に根拠がない感覚派タイプ。学部関係の知識がないタイプ。
大学は、入学後にゼミ(グループ学習)、研究室や参加型の講義でしっかりと役割を果たし、大学を活気づけるような高校生を採用したいと考えています。
スポーツでいうと、選手兼監督のような人物です。日頃から知識を鍛え、ここはと思えば前に出てゆくが、常に全体を見ており、雰囲気づくりにも心を配る。こういった、受験生を望んでいます。
事前に準備できること
事前に準備できることは2つあります。
社会全般および学部に関係する知識を増やす
1つ目は、社会全般および学部に関する知識を増やすことです。
『現代用語の基礎知識』や、学部別のネタ本シリーズがおすすめです。読むだけでなく、簡単にまとめたり、関連する小論文を書くことで知識が深まり、グループディスカッションにかなり強くなります。
ただし、グループディスカッションでは、あえて学部と無関係のテーマを出すこともあります。視野の広さを見たいということです。対策としては、新聞か週刊誌『AERA』を読みます。
グループディスカッションの経験を積む
2つ目は、グループディスカッションの経験を積むことです。グループディスカッションがある友人や、協力してくれる友人を5人程度集めて、担任や進路指導部の先生に頼んでみてください。
このとき、ぜひやってほしいのが録音です。ほかのメンバーや先生には、自分だけが利用することを伝え、事前に許可を得てください。その後、録音を聞いてみてください。
- 声は大きく聞き取りやすいか。早口ではないか。
- 人の意見をよく聞き、理解し発展させる努力をしているか。
- 自分の意見には、具体例、体験、専門家の見解、データなどの根拠を添えることができているか。
グループディスカッションで予想されるテーマ例は、下記をご覧ください。
グループディスカッションで予想されるテーマ
学部ごとに挙げましたが、下記のテーマは全学部で注意が必要です。
学部 | 予想テーマ |
法・政治 | ・死刑制度について ・働き方改革について |
経済・経営・商 | ・消費税率を今後どうすべきか ・高齢化、人口減少と地方の課題について ・働き方改革について |
文・教育 | ・日本文化の魅力について ・入試制度改革について ・体罰について |
国際・外国語 | ・日中(または日韓)関係について ・英語教育について(4技能など) |
総合・情報・環境・人間 | ・AIについて ・働き方改革(1億総活躍社会)について |
教員養成 | ・体罰について ・理数離れについて ・良い先生像について |
理工 | 学部・学科に非常に関連性が深い出題に注意してください。一方で、幅広く社会・文化・科学からの出題も要注意です。 (例)[情報]AIについて、[工学]自然災害について、[理学]理数離れについて |
農・獣医畜産・水産 | ・食料自給率と日本の農業 ・食の安全 ・地球温暖化、生態系の問題 |
医・歯・薬・看護医療 | 学部・学科に非常に関連性が深い出題の可能性があります。 |
入試当日に心がけること
グループディスカッション当日に心がけることは、まず緊張対策です。上がり症の方は、事前に下見をしておく、当日少し早く着くようにする、(事前に十分にデメリットを理解したうえで)30分程度前に、強すぎないエナジードリンクを飲んでおくなどです。次の記事も参考にしてみてください。
グループディスカッションの標準的な手順
控室待機 | 雑談せず待機。 『現代用語の基礎知識』 または、学部に関係する本を読んでいても良いでしょう。 |
会場へ移動 | 指示に従います。 |
会場の様子 | 円形に椅子が配置されている場合と、面接官と対面して全員が座る場合があります。 |
諸注意 | グループディスカッションの進め方、制限時間、テーマの発表が行われます。議長(司会役)を選ぶ場合があり、立候補を求められる場合もあります。 |
グループディスカッション | 注意点は下記を参照。 |
終了 | 控室に戻るか、そのまま解散となります。合格時には学友となりますので、LINEの交換もおすすめです(女子は、入学式前に呼び出されても、対応はしないようにします)。 |
グループディスカッション内で心がけること
グループディスカッション内で注意すべきことは3点です。
(1)テーマと目的地をつかむ
テーマが発表された直後から、グループディスカッションのテーマをしっかりつかむようにします。知っている知識があれば確認します。
また、テーマには3つの方向性があります。
タイプ | 例 | 目的地 |
意見が分かれるタイプ | 死刑制度について | ・グループ全体で賛否など、1つの結論をめざす。 ・両方を統合した結論をめざしても良い(どっちつかずはNG)。 |
解決策を探るタイプ | 理数離れについて | ・原因を探り、それを解消する方法を全員で探ります。 ・少子化のように、原因(日本経済の衰退)を解消できない場合、良い対処法を全員で探ります。 |
ただただ深めるタイプ | 自由とは何か | ・メンバーの意見をなるべくまとめてゆきますが、結論は1つとは限りません。 |
(2)しっかり聞く姿勢を取り、役割を決める
グループディスカッションが始まったら、まずはしっかり議論を聞きましょう。次のような態度が重要です。
- 目を合わせ、体を傾けて、傾聴の姿勢を見せる。
- 人の発言には、必要に応じて、相づち・くり返し・言い換え・簡潔なまとめなどを行い、話し手への配慮を見せる。
参考:マイクロカウンセリングなどの包括的アプローチを分かりやすく
慣れてきたら、他の人の動きを見て、自分の役割を考えてみましょう。
- 司会(議長)の役割 … 話を次の方向に進めたり、適切な人に発言を求めたりします。
- 書記的な役割 … 実際にメモを取るわけではありませんが、話の流れや発言者をなるべく正確に覚えます。
- タイムキーパー的役割 … 実際に時間を測るわけではありませんが、時間を意識し、時間内に結論が出るよう導きます。
上はあくまでイメージで、実際には書記的、タイムキーパー的な役割でも、議論に参加します。
(3)意見を述べるときは根拠を添える
意見を述べるときには、必ず根拠を添えます。大学では論文を書く機会が増えます。論文内で主張するときには、必ず証拠(エビデンス)を添えますので、大学側はこの力を重視します。
- データ … 事前に読んだ本やニュースで知った数値を覚えている場合は使用します。証拠強度:強。
- 引用 … 事前に読んだ本やニュースで、専門家の意見を覚えている場合は使用します。証拠強度:強。
- 具体例 … 事例を挙げます。証拠強度:中。
- 体験 … 体験談を挙げます。証拠強度:低(証拠としては弱いですが、思いつきやすく分かりやすいため、問題なく使用できますが、多くの人に当てははまらない内容とならないように心がけます)。
グループディスカッションでの発言のパターン
グループディスカッションでの発言の仕方は、主に3パターンあります。
呼び方 | 説明 | 例 |
頭括(とうかつ)型 | 結論→根拠の順。頭でまとめます。 | 私は死刑には反対です。犯罪が抑止できるとのデータがないからです。 |
総括(そうかつ)型 | 結論→根拠→まとめの順。長くなったり、論点が広がった場合に用います。 | 私は死刑に賛成です。死刑を考えるには、被害者感情、国民全体の感情も大切です。例えば、……です。このような理由から、死刑制度を支持したいです。 |
尾括(びかつ)型 | 根拠(反論、補足)→まとめの順。思い切った結論を述べるので後回しにしたいとき。また、他のメンバーの発言に、反論や補足を行いつつ、自分の結論に導く場合に使います。 | 被害者感情も重要なのですが、えん罪による死刑は、誤って執行した場合、回復ができません。誰しもがえん罪に巻き込まれるリスクはあります。やはり、死刑には反対です。 |
グループディスカッションでの正しい日本語
グループディスカッションでは、正しくわかりやすい日本語も評価の対象です。ポイントは、2つに絞られます。
・若者言葉、くだけ過ぎた言葉を使わない。 ・無駄が多い構成を避け、短く端的に言い切る。 |
- (悪い例)被害者感情とかも分かるけど、……です。なので、僕は死刑には、反対だったりします。
- (正しい例)被害者感情はよく分かりますが、……です。そのため、私は死刑制度には、反対です。
NGワードの例として、たり、とか、なので、けど、僕があります。
- (悪い例)心配は分かりますが、今よりずっと深刻だった冷戦の際にも、米ソとも核ミサイルは使いませんでしたし、そもそも北朝鮮には約2500万人の罪のない、ごく普通の人々が暮らしていることからも、北朝鮮に対し、やみくもに先制攻撃を仕掛けるという考え方には、私は賛成できません。
- (正しい例)心配は分かりますが、今よりずっと深刻だった冷戦の際にも、米ソとも核ミサイルは使いませんでした。北朝鮮には約2500万人の罪のない、ごく普通の人々が暮らしています。私は、北朝鮮に対し、やみくもに先制攻撃を仕掛けるという考え方には、賛成できません。
小論文でも身につくディスカッション力
グループディスカッションには、場慣れが必要です。高校で数回は訓練をしてもらうことが重要です。そのほか、問われる能力が小論文と似ていますので、小論文の訓練も有効です。
小論文で問われる能力 | ディスカッションで問われる能力 |
論旨の明確さ、説得力 | まず結論を述べ根拠を添えているか。 |
文章表現と漢字 | 話し言葉を避け(例:なので、とか)、正しい日本語で発言しているか。 |
課題文、グラフ、図表の読み取りの正確さ | 資料、他のメンバーの話を正確に理解し、自分のなかで、主張をまとめられているか。 |
独創性や個性 | 発言の切り口に、独自性や個性はあるか。 |
関連:小論文の書き方
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