進学先に法学部を考えている高校生のために、就職状況、将来性、学ぶ内容を分かりやすく説明します。実際に法学部で学ぶ学生の口コミも紹介したします!
- 筆者:加藤 早大法学部卒。高校生のキャリア指導企業を経て、予備校国語科講師(歴7年)。現在、高校主催講演会に年80回出講(歴5年)。
改訂:2019年3月
法学部とは?
法学部とは、その名の通り法について学びます。法とはどんなものがあるのでしょうか?
有名なのは、高校受験や現代社会、政治経済にも出てくる憲法です。とくに憲法9条は、有名ですね。ほかには、民法、刑法、商法などがあります。法学部生は、入学すると全員六法全書を購入し、各法律について学んでいきます。
法学部生の1日と就職状況
法学部生には、実は2タイプの学生生活があります。
法学部生は、入学後早い段階で、公務員、中学高校の先生(社会科)、司法試験、税理士、司法書士などの資格をめざす「資格組」と、民間就職をめざす「民間組」に分かれます。
法学部 資格組の学生生活
講義 | 自習 | |
講義 | 講義 | アルバイト |
公務員講座 | 公務員講座 | サークル |
法学部に進み、公務員、中学高校の先生、司法試験、税理士、司法書士などの資格をめざす「資格組」の時間割のイメージです。どのようなイメージを持つでしょうか?
それなりに忙しいというイメージが正解です。理系・医療系の大学生より少し余裕がありますが、一般的な文系よりやや忙しいイメージです。
学生の声を聞いてまとめてみました。
- メリット:公務員、中高教員など目標があるので、学生生活や就職が成功しやすいです。
- デメリット:文系としてはスケジュールがきつく、アルバイトなどは多少制約されました。
法学部 民間就職組の学生生活
講義 | 英会話学校 | |
講義 | 講義 | アルバイト |
アルバイト | サークル | 自習 |
今度は、法学部に進み資格(TOEIC、簿記程度の資格を除く)はめざさない「民間就職組」の時間割のイメージです。どのようなイメージを持つでしょうか?
講義(授業)の空き時間が多く、アルバイトやサークル活動を謳歌(おうか)している様子が思い浮かびます。朝9時からの講義がない日もあり、ときには午後から大学に登校することもあります。一般的な文系のイメージです。
学生の声を聞いてまとめてみました。
- メリット:好きなことを学ぶことができ、時間にも余裕があり、アルバイトもできました!
- デメリット:就職がうまく行く人と、行かない人の差があると感じます。
このように、法学部生には大きく分けて2つのタイプがあります。
資格組は、公務員、中高教員など、就職直結型の資格をめざす
法学部の資格組は、公務員、中高教員など、就職直結型の資格をめざします。
ここでは、学生時代の負担が重いものの、取得し、企業や公的機関に採用されれば、その先仕事に困ることが少ない資格を紹介します。学生生活は、資格一色になることが多いです。
ただし、地方公務員や教員採用試験の場合は、忙しいながらも、アルバイトやサークルと両立している人もいます。筆者の教え子でも、アルバイトで月10万円近く稼ぎながら、中高教員の免許を取得した人がいました。
取るのが極めて難しいが、仕事に困ることが少ない資格
- 弁護士 … 法学部から法科大学院に進学するのが、確実性の高い(合格率約40%)ルートです。合格には、旧帝大、早慶(最低でも、中央大法学部)卒クラスの学力が必要です。総勉強時間は、最低6000時間。
- 税理士 … 法学部や経済系学部生の受験が目立つ資格です。難度は公認心理士と同程度ですが、1科目ずつ合格を蓄積できるため、社会人の参戦が多いのが特徴。総勉強時間は、3000~5000時間と言われます。
(参考)公認会計士 … 学部を問いませんが、経営・商あるいは経済学部からの受験が目立ちます。MARCHクラスの学生の合格も多いですが、なかでも、地頭や根性の面でやや抜けた生徒が合格している印象です。総勉強時間は、3000~5000時間と言われます。
- 司法書士 … 弁護士より身近な法律の専門家です。総勉強時間は、2000~3000時間と言われます。
- 不動産鑑定士 … 土地など不動産の価値を評価する専門職で、不動産鑑定事務所などに勤めます。総勉強時間は、最低2000時間。
(参考)弁理士 … 特許権、実用新案権、意匠権、商標権などの専門家ですが、試験内容から理系出身者が大半です。総勉強時間は、3000時間前後と言われます。
取ったあとの採用率がやや低いが、採用されれば安定感のある資格
- 国家公務員、地方公務員 … ある程度の学力が必要です。地方公務員なら日東駒専クラスの学生も健闘しています。採用されれば、クビ(解雇)になることはあまりなく、安定感は抜群です。総勉強時間は、1000~1500時間と言われます(※)。
- 中学校教諭1種(社会)、高等学校教諭1種(地理歴史・公民) … 採用率やや低めですので、地方の学校への就職も視野に入れておきます。英語・数学・理科の免許の方が、就職にはやや有利と言えます。大学生時代に、塾でアルバイトをすると有利です。
※国家公務員一般職、地方公務員上級職の場合。
民間就職組は、それぞれの武器を身に着け就職をめざす
民間就職組は、それぞれの武器を身につけ就職をめざします。
講義 | ||
講義 | 講義 | |
・ | ・ | ・ |
司法試験など負担が相当重い国家資格をめざさない法学部生は、上のイメージのように、時間割に余裕があります。土曜日は、講義がないという学生もいます。
講義 | (英会話学校) | |
講義 | 講義 | (アルバイト) |
(アルバイト) | (サークル) | (自習) |
就職に結びつけるために、空いた時間にどんな活動を入れるかで、就職の成功、不成功が決まってきます。
(1)サークル活動やアルバイトに力を入れる
就職のさいに、学生生活での取り組みはほぼ100%聞かれ、合否を左右します。そのため、サークル活動やアルバイトで、経験値を増やし、自己PRポイントを作る学生は非常に多いです。
また、学費や生活費を稼ぐためにアルバイトをする大学生も多くいます。
(2)資格取得に力を入れる
弁護士、公務員など負担が大きな資格以外の資格を取り、自己PRポイントを作る学生も多くいます。メジャーなのは、TOEIC(点数制の英語の資格)と簿記の資格です。ほかに、法学部生に合った資格の例も挙げておきます。
- 社会保険労務士 … 社会保険の専門家(1000時間)
- 行政書士 … 役所提出の書類の専門家(600時間)
- 宅地建物取引主任者 … 不動産取引の専門家(400時間)
※( )内は、総勉強時間の目安(最低限)。
TOEIC、簿記を含め、これらの資格は、取っただけで就職ができるものでは、ありません。武器としての資格という位置づけです。
法学部の就職先
法学部の就職先の一例として、青山学院大学 法学部2017年度の例を挙げます(青山学院大学ウェブサイトより抜粋)。
法学部の就職先は、理工学部や看護医療系学部からでないと就けない企業を除く、ほぼすべての業界です。理工系の企業であっても、総合職(事務・営業等)での採用があります。
業種 | 企業例(※下に注あり) |
建設業 5人 | 大和ハウス、ミサワホーム |
製造業 46人 | トヨタ、パナソニック |
電気・ガス・熱供給・水道 2人 | 東京電力、東京ガス |
情報通信 43人 | NTTドコモ、Yahoo! |
運輸 17人 | ヤマト運輸、日本郵便 |
卸・小売 34人 | 住友商事、丸紅 |
金融・保険 79人 | 三菱UFJ銀行、JCBカード |
不動産・物品賃貸 17人 | 住友不動産、オリックス |
学術研究専門・技術サービス 29人 | 各税理士事務所、各ウェブデザイン企業 |
宿泊・飲食サービス 6人 | 帝国ホテル、サイゼリヤ |
生活関連・サービス・娯楽 7人 | セコム、ベネッセ |
教育・学習支援 6人 | 各大学、イーオン(英会話) |
医療・福祉 4人 | オムロン、エーザイ |
その他サービス 25人 | |
公務 42人 | 地方公務員、国家公務員 |
その他 3人 |
※注 企業例は、青山学院大学法学部からの就職実績に関わらず、その業種の代表的な企業名を、よく知られている呼称で挙げたものです。
法学部で学ぶこと
法学部とは、その名の通り法について学びます。憲法9条(平和条項)で知られる憲法のほか、民法、刑法、商法などがあります。法学部生は、入学すると全員六法全書を購入し、各法律について学んでいきます。
法学部1年生の授業のイメージです。高校の現代社会や政治経済のように、具体的な社会問題を扱うことは少なく、法そのものを扱うことに注意が必要です。
- 憲 法 (人 権)
- 民 法 (総 則)
- 民 法 (債 権 総 論)
- 刑 法 (総 論)
- 刑 法 (各 論)
もう少し具体的にイメージするには、法学部のゼミ(上級生を中心としたグループ学習)の内容を見るとよいです。法政大学・法学部 ゼミ・研究室紹介より抜粋しました。
行政紛争を模した行政法の事例学習を通じて一般市民と行政の立場を理解 | 「私人である一般市民と、公的な行政機関との紛争処理などを、実践的に学んでいます」と紹介してくれたのは、行政書士の資格取得を目指しているゼミ長の久岡さん。「今は3年生が中心となって行政紛争の事例学習に取り組んでいます。西田先生から課題が提示されるので、関連法令や参考判例が記された20ページほどの資料を読み解きながら、設問の解答を導き出すのです」 |
例えば高層マンションの建築許可の問題のように、市民と役所の紛争を具体的に学ぶ内容です。上級生のゼミではこのように具体的な問題を学ぶこともできますが、法学部の講義は、「関連法令や参考判例が記された20ページほどの資料を読み解き」に近いものです。
1本の道筋を導き出し、民法における諸問題の最適解を論証 | 所属する2年間で民法(財産法)の全体を総合的に学べる宮本ゼミでは毎週、輪読により財産法上の諸問題を研究しています。ゼミ生は事前に、主要なテーマに関する判例および学説が載っているテキストを読み込み、関連する判例や文献を収集・分析して時代背景や社会的動向も考慮しつつ判例が導き出された根拠を探り、自分なりの解を推論。 |
このゼミは、学生生活の大半を占める、講義で学ぶ内容のイメージに近い学習内容です。
フィールドワークで積極的に地域に入っていく | 名和田教授ゼミでは地域社会・コミュニティの研究を大きなテーマに掲げています。「学生には、能動的かつ積極さを持ってフィールド調査することを求めています。出来るだけ定期的に通い、多くの関係者に話を聞きながら、“地域に入っていく”感覚を培ってほしいと思っています」と名和田教授は話します。 |
このセミは、フィールドワーク(実地調査)をメインとするゼミで、法学部としては異色です。このゼミにひかれる方は、人文科学系の学部の方が合っているかも知れません。
【まとめ】法学部とは? 就職状況、将来性、資格、学ぶ内容を分かりやすく解説
以上、法学部の就職状況、将来性、資格、学ぶ内容について説明してきました。法学部の学生生活には、弁護士、税理士、公務員、中高教員など負担の重い資格を目指す場合と、そうでない場合で、学生生活や就職活動が大きく異なります。
また、法学は、経済と並びかなり抽象的な学問であり、難解な部分があります。事前に体験講義を受講することや、大学の生協を訪ね、教科書を見ておくことが不可欠です。ただ単に政治や社会に興味があるという程度では、合わないの可能性もあります。
また、別の角度から言うと、すでに完成している法体系を学ぶ学問であり、創造性には乏しい面があります。新しい手法が日々生まれている経営学、商学のような変化に富む要素はないため、その点も合う合わないが分かれてきます。
法学部生の口コミ
やる気のある人が多く、みんな法曹に対する興味関心が非常に高いです。割合としては、法曹の職につく人はわずかですが、その他に就職するのもみんな一流企業を狙ってます。コネではないですが、慶應の人脈は強くてなかなか就職には強いんじゃないかなって思いますよ。(慶應義塾―法)
ロースクールに有名教授が引き抜かれてしまったが、国際法に権威が多くかなりおすすめできる。早慶よりも生徒に対する教授の数が多く居心地が良い。(上智)
試験のレベルは、司法試験の類題が出るように高い。ノートを写すなど付け焼刃は無理。(早稲田―法)
中大の政治学科は法学科ときちんとわかれており、ガバナンス論、国際関係など様々なことを学べる。ただし英語の授業が思ったほど充実していなかった。(中央―法)
予想より(法曹を目指している様な)真面目な生徒が少ないので、あまり真剣に授業を受ける雰囲気では無いです。法曹になりたい人が少ないため、なれた人が少ないです。付属の法科大学院に進学する人すらごく僅からしいです。有名な銀行や、企業の法務部をはじめ多様な就職実績があるようです。しかし、全体的な就職率は低いと感じます。80%くらいと聞きました。近年、青学法学部はゆるいという噂を一掃しようと教授方が頑張っていらっしゃるので、今後、改善するだろうと感じています。(青山学院―法)
大手企業(金融系、保険、食品、総合商社)への就職が早々と確定している学生がいる一方で、就職浪人する学生もいる。何社も内定をもらうか一つも内定がもらえないかのどちらかになることが多いという印象です。法科大学院に進学する学生や、公務員志望の学生は、2年生か3年生にはダブルスクールで予備校に通いながら勉強する学生がほとんど。(明治―法)
緑法会という1年生向けの法律ゼミがあって、週1で授業でやった部分を先輩が講義形式で説明してくれる。休んでもレジュメをもらえたり、先輩が振替講義をしてくれる。(早稲田―法)
自分は少し都会的な感じの女子に魅かれるが、女子が自分の好みではない。(明治―法)
(参考)国家公務員と学歴
国家公務員を考える場合、官僚と呼ばれる、国家公務員総合職試験(旧国家Ⅰ種)は、東大卒が有利です。試験には合格できても、東大生は面接に強みがあるようです。ただし外務省に限っては、東京外語大も可のようです。国家公務員一般職試験(旧国家Ⅱ種、Ⅲ種)や地方公務員では、国立、早慶、MARCHなどから合格者が多く出ていますが、試験・面接は平等性が高いため中堅大からも努力すれば狙えます。警察官、消防官は日大など中堅大学が強くなっています。
コメント
[…] […]