
高校などで小論文の教え方・指導法について。このページでは、予備校の小論文講師を経て、高校で年80回講演を依頼されている筆者が、教え方・指導法から授業法までお伝えします。
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予備校主催の教員向け研修の一部も公開!
生徒が小論文でつまづくのは2か所 ①段階構成

高校生が、小論文でつまずく場所は、2つあります。1つは段落構成、もう1つは、テーマを与えられても「何を書いてよいか分からない」です。
段落構成の教え方は、2つのルートがあります。うち1つは、よくある図式からアプローチしてゆくものです。

まず上の図を板書してみてください。生徒は、中学や高校のパンフレットなどで親しみを持っている図式(パワーポイント的樹形図?)です。
上の図式がどのような仕組みなのかを生徒に聞くと、「要点」をまず提示し、「くわしく」枝分かれさせる仕組みだと気づきます。
- 生徒の状況によっては、この図のような事例も有効です。この場合も、「要点」をまず提示し、「くわしく」枝分かれさせる仕組みであることを強調します。
- 総合的な探究の時間など、余裕がある場合は、各自で1つずつ「図式」を作らせるのもおすすめです。
- テーマは、「高校の紹介」「私のトリセツ」などが考えられますが、生徒のレベルが少し高い場合「私の住む地域の紹介」もおすすめです。
さて、さきほどの図を文章化するにはどうしたらよいでしょう?

文字を横書きする場合、上のようになります。文章は長く続いてゆくため、読み手は最初に示した「要点」を忘れることがあります。そのため、最後にも要点をくり返します。

この「要点‐くわしく‐要点の仕組み」を押さえさせたあと、小論文の構成に移ります。例えば「小学生にスマホを持たせるべきか」というテーマが、導入にはおすすめです。
「小学生にスマホを持たせるべきか」というテーマを全員に示し、賛成か反対かで挙手をさせてみてください。近年は、学力を問わず真面目な生徒が多く、反対が多くを占める傾向です。

多い方の意見に合わせ、生徒の意見を聞きながら、上のような表を黒板(白板)に完成させます。この図が完成したら、あとは文章化するだけです。
- 高校受験塾を経験した生徒は、はじめの段落に「結論+なぜなら……」という文章を書くパターンを暗記している場合があります。
- このパータンは、大学入試には通用しないと伝えます。
- 要点=抽象、くわしく=具体と分類できます。なぜなら……にあたる「理由」は、具体に分類されますので、必ず段落を分ける癖をつけさせます。

小中学校に多い、400字の文章なら、上の3段落構成です。400字詰め原稿用紙に3段落で書くイメージを持っている生徒も一定数いますので、頭に入りやすようです(中学校によって、指導方法が異なります)。

一方、大学受験や就職活動では、600~800字が平均的ですので、上のように「はじめ-なか-なか-むすび」の4段落構成が基本です。
生徒は例文を求める傾向が強いですので、プリントして配布がおすすめです。下の例文はコピーして自由にお使いください(「受験ネットより」と書いて頂けると大変助かります)。
小論文の例文「小学生にスマートフォンを持たせるべきか」
小学生にスマートフォンを与えるべきだろうか。私は反対だ。
私はスマートフォンのしすぎで、高校受験に失敗してしまった経験がある。当時、パズル系のゲームに熱中しており、塾では廊下の片隅で、子供部屋では親の目を盗み、かなりの時間をゲームに費やしてしまった。勉強時間が減ってしまった結果、成績は上がらず、希望の高校に合格することはできなかった。私には小学生の弟がおり、いつかは高校受験をすると思う。弟を見ていると、特に小学生は、ゲームや動画にのめり込みがちな傾向を感じる。高学年になれば、先生や親の目を盗むことも覚え、勉強時間は少なくなってしまうと考える。
さらに、スマートフォンは歩きスマホでの事故にもつながる。小学生は、ゲームなどに熱中しやすい年齢であり、視野も狭くなりがちなことから、小学生の歩きスマホは特に危険である。また、ソーシャルネットワークサービス(SNS)を通じた危険な誘いを受けることも心配される。最近では、オンラインゲームを通じた誘いも報道されており、危険は広がっていると言える。
以上から、小学生にスマートフォンを与えることに、私は反対である。将来のために、学力を高めつつ、安全な生活を送って欲しいと考える。(519字、改行等を除く)

段落構成の授業では、最後に一般化、パターン化して締めくくります。できれば宿題を出し、定着を図ります。

上の図が、小論文のパターン(600~800字)です。事例は少ないですが、1000字以上の場合は、本論を3つ以上にします。
①体験のように、数字が小さいほど、生徒としては書きやすいのですが、根拠としては弱まります。
その反面、体験談や具体例は、試験場では字数が埋まりやすく、採点者にとってもピンときやすい利点があります。体験談を書くなと指導することで、入試で時間切れになる可能性もありますので、注意が必要です。ただし、偏差値60以上の高校では、禁止してもよいでしょう。
また、入試の小論文で文献やデータを引用するのは難しいのですが、たまたま教科書やテレビ番組で見た内容を覚えていることもありますので、一応教えておきます。大学進学後のレポートや、論文執筆につながります。
体験、具体例、理由とは?
体験は1人のもの、具体例は数例みられるもの、それが全国にあまねく広がると「理由」になります。
いずれも、抽象と具体に分けると、具体に属するものです。「理由」と呼ばれるものは、具体の素粒子が大量に集まったものだと、(先生の側は)イメージしてよいです。
小論文(600~800字)は、抽象ー具体ー具体ー抽象という構造に本質があるのですが、偏差値で言うと60以上の高校でないと、この教え方ではうまく伝わらないようです。ただ、先生は、本質を知っている必要があります。
以上が、生徒が小論文でつまずく2大ポイントの1つ、段落構成の教え方です。授業の締めくくりとして、上に出てきた図(こちらの図)を必ず暗記するように伝えてください。
小論文模試や、入試の際に、この図をまずメモ欄等に書き出し、次に段落構成を考えます。試験時間の3分の1程度は、課題文やグラフ・図表の読み取りや、段落構成メモを作成する時間にあてると、成功しやすくなります。
段落構成の教え方には、もう1つのルートがあります(これは手短に説明します)。小中学校での作文の構成を思い出してもらい、そこから小論文につなげるイメージです。
目的 | 例 | 小論文の場合 | |
はじめ | テーマを確認し、結論を伝える | 私は、奈良への修学旅行で、日本の国の成り立ちに興味を持ちました。 | テーマと結論 |
なか | 具体的な体験など | 残された遺跡は少なかったですが、支配者の権力を示す痕跡をいくつか見て、国の原点を感じました。 | ・体験 ・具体例、内容 ・理由 ・文献、データ |
むすび | 結論を確認する | 私は、修学旅行を通じて、国の政治に対する関心を高めることができました。 | 結論 |
ただ、中学校によって作文指導の方法が異なり、箇条書きのように構成し、字数を埋めてきた生徒も目立ちます。ご指導されるクラスの生徒の出身中学ごとに、どの程度作文指導が浸透しているかを確認しておかないと、上の方法はうまく行きません。
基本的には、生徒が中学や高校のパンフレットなどで親しみを持っている図式(パワーポイント的樹形図?)で教えるのがおすすめです。
Q 現代文の評論は、小論文の構成ではないようなのですが?
A はい。高校生に与える評論は、かんたんには読み解けないように、構成を崩したものが大半です。2011年度センター試験国語の問題、鷲田清一『身ぶりの消失』を見てみます。
わたしは思い出す。しばらく前に訪れた高齢者用のグループホームのことを。
メモ この小論文(評論)は、体験談(くわしくの要素)から導入しています。
住むひとのいなくなった木造の民家をほとんど改修もせずに使うデイ・サーヴィスの施設だった。もちろん「バリア・フリー」からはほど遠い。玄関の前には石段があり、玄関の戸を引くと、玄関間がある。靴を脱いで、よいしょと家に上がると、今度は襖。それを開けてみなが集っている居間に入る。軽い「認知症」を患っているその女性は、お菓子を前におしゃべりに興じている老人たちの輪にすぐには入れず、呆然と立ち尽くす。が、なんとなくいたたまれず腰を折ってしゃがみかけると、とっさに「どうぞ」と、いざりながら、じぶんが使っていた座布団を差し出す手が伸びる。「おかまいなく」と座布団をおし戻し、「何言うておすな、遠慮せんといっしょにお座りやす」とふたたび座布団がおし戻される……。
和室の居間で立ったままでいることは「不自然」である。「不自然」であるのは、いうまでもなく、人体にとってではない。居間という空間においてである。居間という空間がもとめる挙措の「風」に、立ったままでいることは合わない。高みから他のひとたちを見下ろすことは「風」に反する。だから、いたたまれなくなって、腰を下ろす。これはからだで憶えているふるまいである。からだはそんなふうに動いてしまう。
からだが家のなかにあるというのはそういうことだ。からだの動きが、空間との関係で、ということは同じくそこにいる他のひとびととの関係で、ある形に整えられているということだ。
メモ この2文が、要点にあたります。「家」という、体験や具体例の要素が残存していますが、「身体は、空間や他人との関係でその形を成す」という、抽象的な主張にまとめられています。
(後略)

体験談から入るように切り取ったのは、テーマを簡単には読み取らせないためです。また、要点(抽象)の部分にも、具体のかけらが残存しており、高校偏差値で55を切ると、難儀する生徒が多いです。

古い木造の民家のイメージも持っていた方が読みやすい文章です。都会の子どもの場合、古い木造の民家を、幼少期に体験させるのは、旅行に連れてゆくなど、親の技量に属する部分です。
この辺まで問うているとすれば、さすがセンター試験(現在の共通テスト)の問題だと言えます。
まとめ 段落構成
・50分の授業なら、①導入(10分)、②パワーポイント的樹形図の理解(10分)、③小論文の段落構成の実例に基づいて考える(小学生にスマホを与えるべきかなど)(20分)、④小論文の段落構成のパターン化(10分)
生徒が小論文でつまづくのは2か所 ②何を書いてよいか分からない

生徒が小論文でつまずく2点目は、何を書いてよいのか分からない、ということです。
高校のレベルを問わず「小学生にスマホを与えるべきか」といったテーマなら、大半の生徒が書くことができます。
しかし「地域の課題を自由に論じなさい」となると、偏差値でおおむね45未満の高校では、「?」となってしまう生徒が増えてきます。
ある観光地の高校(偏差値では40未満)でこの課題を出したところ、次のような会話となりました。
生徒 何を書いてよいか分からないのですが?
筆者 観光地としての課題は、ないですか? 例えば、通学路に旅館がありますよね?(実際にその高校の周辺には旅館が多い)
生徒 えー、旅館ですか? ほとんど意識したことがありません!
これが実情です。「小学生にスマホを与えるべきか」「学校の規則について」「いじめについて」。こういった、日常体験にぴったり寄り添ったテーマは書けますが、地域の課題となると、とたんに苦しくなる高校生も多くいます。
まず1つ目に教えておきたいのは、小論文のテーマには、3種類あるということです。
- 賛否型
- 提案型
- 作文型
テーマ | 型 | 説明 |
小学生にスマホを与えるべきか | 賛否型 | 第1段落でテーマと結論(賛否)を示し、第2、3段落で根拠(体験、理由等)を書く形がおすすめ。 |
学校の規則について | 提案型 | 第1段落でテーマと結論(小論文の方向性)を示し、第2段落で課題を指摘し、第3段落で解決策を書く形がおすすめ。 |
自分の夢について | 作文型 | 第1段落でテーマと結論を示し、第2、3段落で具体的内容を書く形がおすすめ。 |
賛否型、提案型、作文型のそれぞれについて、下のフォーマットを参照しながら、段落構成をイメージさせます。生徒は「自由に論じなさい」という指示に戸惑うことが多いので、この指導だけでも、ずいぶん整理がつきます。

ただ、何を書いてよいのか分からないという問題は、もっと根が深く、社会問題を知らないので、書くことがないというケースも多いです。より正確に定義すると、社会・文化・科学の知識の不足、となります。
例えば、「地域の課題を自由に論じなさい」というテーマでは、以下のような社会・文化・科学の知識が必要です。
- 《社会》少子高齢社会、人口減少社会、シャッター商店街
- 《文化》観光の変化(団体旅行から、個人旅行へ)
- 《科学》新型コロナウイルス感染症による、テレワーク志向とWeb技術の対応。
偏差値で言うと、55を切る辺りから、社会・文化・科学の知識はかなり寂しくなってきます。
対策として、新聞を読む過程は減っていますので、ニュース週刊誌『AERA』を読ませるのがおすすめです。社会・文化・科学にまんべんなく触れ、若者文化から高齢者の問題まで、バランスが良く、文章も朝日新聞の記者レべルにあり、正確です。
まとめ 何を書いてよいか分からない
・50分の授業なら、①導入(10分)、②小論文のテーマの3種類について(20分)、③社会・文化・科学の知識の重要性と『AERA』のコピー配布(20分)。
前段階として、段落構成の授業が必要です。
まとめ 段落構成
・50分の授業なら、①導入(10分)、②パワーポイント的樹形図の理解(10分)、③小論文の段落構成の実例に基づいて考える(小学生にスマホを与えるべきかなど)(20分)、④小論文の段落構成のパターン化(10分)
小論文授業計画の例(4回の場合)


50分授業を4回設定する場合の例です。
目的 | 授業計画 | 宿題 | |
1 | 段落構成の理解 | ①導入(10分) ②パワーポイント的樹形図の理解(10分) ③小論文の段落構成の実例に基づいて考える(小学生にスマホを与えるべきかなど)(20分) ④小論文の段落構成のパターン化(10分) | 小学生にスマホを与えるべきか(600字) |
2 | 何を書いてよいか分からない対策 | ①導入(10分) ②小論文のテーマの3種類について(20分) ③社会・文化・科学の知識の重要性と『AERA』のコピー配布(20分)。 | 地域の課題を自由に論じなさい(600字) |
3 | 課題文要約対策 | 下のページをご活用ください 小論文・現代文 要約の書き方 3つのコツですぐに書ける! | 課題文型の小論文(800字) テーマは下のページを参照 小論文 2022年度予想テーマ・例題一覧(学部別) |
4 | 総まとめ | 模試形式で50分以内で記述 テーマ型(課題文なし)で600字が目安 | なし |
ご質問があれば、コメント欄にお寄せください。また、出張講義のお問い合わせは、プロフィールからお気軽にお声かけください。
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小論文は「独特な型」で教えてはいけない!
小論文は決まった教え方がないため、先生の受験時代の勉強法や、参考書通りになってしまうこともあります。もちろん誤りではありませんが、独特な段落構成は、生徒の入試対応力を下げてしまうため、注意が必要です。
特殊な型 | 問題点 |
結論→理由→反対意見への譲歩と反論→結論 | ・賛否が分かれるテーマにしか適応できず、提案を求める出題や、漠然としたテーマに対応できません。 ・結論(序論)が「抽象」で、本論が「具体」であるという本質を外しているため、理解が浅くなります。 |
序論→具体例→理由→結論 | ・第2段落を具体例に固定し、それを一般化します。作文が苦手な生徒は便利に感じますが、適応できない出題があります。 ・SNSをテーマにした小論文の書き方で、これを用いましたが、導入として、ハードルを下げるためのテクニックに留めます。コマ数が多いときに、初回授業で使ってもよいでしょう。 |
PREP法(結論、理由、具体例、結論) | ・展開を固定化しているため、一見便利に感じますが、適応できない出題があります。 ・英語の方が新鮮味があるという場合、SDS法(Summary・Details・Summary)で説明するとよいでしょう。 |
小論文の本質は、双括型(序論・本論・結論)です。双括型は、基本的かつ本質的であるがゆえ、さまざまな書類に応用できます。
- 小論文
- 志望理由書 … 【大学入試】志望理由書のやさしい書き方講座(新入試対応)
- 作文
- 入試面接での話し方
- プレゼンテーション、グループディスカッション
- 進学後に取り組むレポートや論文
- 文章の執筆、ウェブライティング
独特な方法論を持ち込むと、小論文講座を受けた生徒、作文講座を受けた生徒(専門学校、就職希望者等)で指導法が異なる、学年の先生同士で指導法が異なる、志望理由書と面接で構成が異なるなど、高校の現場は混乱します。また、生徒にとっても、将来有用な、本質的な記述力がつかなくなると考えます。
大手予備校の教員向け小論文研修から

この項目では、筆者が大手予備校で受けた、教員向け研修の一部を共有させていただきます。
高校生が文章を書くスピードの目安は、100文字当たり5分
高校生が文章を書くスピードの目安は、100文字当たり5分である(600字で30分)。
高校の授業などで、50分の時間を与えるとして、何文字書かせるのか? よくある悩みどころです。小論文試験の目安どおり、3分の1の時間を、課題文の読解や構想に充てるとすると、次の計算になります。
時間配分 | 内容 |
5分 | 問題の配布、回収等。 |
15分 | 課題文の読解や構想 |
30分 | 30÷5=6の計算により、600字が目安。 |
小論文の段落構成
①序論 … 自分の意見を明示する。
②本論
(1)そう考える理由を述べる。
(2)反対意見の想定(たしかに、~という面がある/また、~という考え方もあろう)
(3)自説のもっとも説得力のある理由を述べる(しかし、~/ただ、~)
③結論 … 自分の意見を再度明示する
上記が、研修講師による段落講師の提示です。
悪くはないと思いますが、本論に関しては、展開を絞り過ぎです。賛否を求める二項対立型の小論文問題に特化した方法論です。
例えば、よく問われる「課題文を参考に、あなたの地域の課題を論じなさい」のような、解決策を求めるタイプの出題に対応できません。また、学校推薦型や総合型選抜を受ける生徒には、志望理由書、自己PR文などがあります。そのとき、また別の段落構成を教える必要があり、生徒も、国語科以外の先生も混乱します。
講師は徐々に型を崩していくことを提唱されており、上の構成を絶対視しているわけではありませんが、序論・本論・結論がもっとも汎用性が高いです。
詳しく 【高校生や初心者向け】小論文の書き方・段落構成を分かりやすく教えてください!|著者:予備校小論文科講師
テーマが明示されない出題が苦手な生徒の指導法
文学の学術論文を執筆する場合、まず研究室の教授の専攻範囲内でテーマを決めてゆく。これは課題が広めに提示される受験小論文を準備するプロセスと似ている。
大学受験の小論文では、「死刑制度の是非」のようにズバリテーマが示されることもありますが、「人口減少社会について論ぜよ」のように、テーマが広く設定されることが多いです。
後者を苦手とする高校生が多いようです。課題発見能力の不足と捉えられることが多いですが、実は、単純に背景知識の不足に原因があります。例えば、趣味や好きなタレントに関してなら、彼らはいくらでも課題を指摘できます。対策としては、『現代用語の基礎知識 学習版』や、新聞の代わりとして朝日新聞社の『AERA』がおすすめです。
詳しく 小論文の参考書おすすめ7冊と勉強・対策法を予備校講師が伝授!
文学の学術論文を執筆する場合、まず研究室の教授の専攻範囲内でテーマを決めてゆく。これは課題が広めに提示される受験小論文を準備するプロセスと似ている。
小論文の得点を高める「先行研究」という発想
学術論文では(テーマを決めたら)つぎに原典にあたり、さらにそのつぎに先行論文を研究し参考になる部分を考えつつ、全くの模倣にならないよう内容を記憶しておく。
研修で例示された、慶応義塾大の小論文では、膨大な課題文の中に、英文が含まれていました。この英文のなかには、出題意図に沿うためには必ず利用すべき部分があり、原典に当たるという発想を、試験官が確かめようとした可能性があります。
(同時に、膨大な答案に瞬時に白黒をつける機能もあります。英語は目立つので、採点者が探すのも容易です)
また、小論文試験には「独自性」の採点項目がある場合もありますが、生徒は、独自性の概念をつかむのが難しいようです。そこで、あるテーマに関する「先行意見」を挙げてもらい、それ以外の見解がないかどうかのディスカッションをすることも有効です。
ヒント 現代文の教科書に掲載されている評論は、多くがそのテーマに対する「先行意見」から外れたものです。何が「先行意見」(一般論)で、どう特殊なのか、その特殊性はどのような土台から導かれたのかを検討するのもためになります。
短く凝縮した文章を書く訓練
生徒には、字数制限の2倍の量を書いて縮める訓練をさせると良い。
高校生が小論文を書くと、基本的には冗長になります。字数を埋めなければならない、という意識が先に立つようです。2倍の分量を書かせることで、「証拠物件」や論点を多くし、良い観点を選び取らせるという訓練は、有効だと思いますが、やや学力上位層向けの訓練と言えるでしょう。
学力中下位の場合、倍量を書くのは難しく、段落構成メモの徹底がおすすすめです。
ヒント 800字の小論文なら、4段落構成(序・本・本・結)がおすすめです。段落構成メモは、序論、結論は文章化させ、本論は箇条書きとさせるとスムーズです。
マニアックな背景知識が合否を分ける?
学術論文で先行論文に当たるということは、受験小論文では既知の事実の学習にも通ずる。この学習範囲は、学習指導要領の範囲内で良い。
大学によっては、学部の研究課題に沿った小論文テーマを出題します。法学部のように、法と道徳(正義)のような基本的なテーマをよく用いる学部もあれば、経済・経営・商学部のように、人口減少社会、新型コロナウイルス流行といった、時事的な課題を好む学部もあります。
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参考図書としては、『現代用語の基礎知識 学習版』や『AERA』がおすすめですが、受験生としては、どこまで勉強すれば良いのかという疑問を持つかも知れません。その場合、学習指導要領ということなら、政治経済の便覧の範囲内が目安になるでしょう。その範囲を超えた部分の知識の有無だけで、合否が決まらないような仕組みになっていると教えておくのが無難かと思います。
ただし、便覧が間に合わないような直近の話題は、知っていることが必要。また、看護医療系では、インフォームドコンセントなど、知っていて当たり前の背景知識があり、それらは参考書にまとまっています。
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小論文の授業計画は、演繹型で進めるのか、帰納型で進めるのか?
学術論文の場合、結論の決定は、原典や先行論文を読みながら自然に結論が出るのを待つか、あるいはある程度結論ありきでプロセスを進めていく。
先入観を持たず、資料を客観的に見て結論を導いていくのが、本来の論文の姿です(演繹型)。しかし講師によると、普段の小論文の練習でこのプロセスを踏むと、生徒の調査力や読むスピードに左右され、中期的に、カリキュラムが進まない傾向があるそうです。
そのため、授業内で数週間を使って調査をさせる場合、やむを得ない形として、初めに結論ありきがスムーズだということです(帰納型)。ただし、入試小論文においては、読むべき課題文や資料に限りがある訳ですので、課題文や資料を客観的に見て結論を導いてゆく立場に戻るべきだと考えます。
反社会的な内容は、どう評価される?
受験小論文指導にあたって、反社会的な内容を特に教える必要はない。
教育基本法の前文に「公共の精神」とあり、第1条に「平和で民主的な国家及び社会の形成者」の育成とあります。高校、そして大学の趣旨からしても、反社会的な内容を生徒に教える必要はないということです。
学部別に見ていくと、反社会的な内容は、医学部、教育系なら即アウト。ほかの学部の教授も、その生徒を自分のゼミ(研究室)に迎えたいかどうかと考えると、歓迎はしないという意見が多いそうです。なお、私見ですが文学部、芸術学部、社会学部においては、若干の反社会性も必要だと思います。あくまで、常識を踏まえた立場から実験的に記しているのだとと伝えつつ、論述することが大切でしょう。
小論文の字数による減点は、大学によってさまざま
大学の教授にヒアリングした感触では、ハイレベルな大学ほど字数にこだわらないのではないか。例えば、慶応義塾大では図表を含めて○○字以内とうような字数が曖昧な出題も見られる。設問に的確に答え、的確な立証が済んでいれば字数が少なくても良いのではないか。逆に、ある種不真面目というかいい加減な大学では、一律に減点する場合もあるようだ。
講師が知り合いの教授にヒアリングした内容のため、統計的なものではないということです。実際に難関大でも、字数が95%を下回ったら減点しているところがあるように、一概には言えないと思います。筆者は、高校生の場合「字数は9割。可能ならさらに余白を減らす」が望ましいと教えています。
同時に重要なことは、予定した結論(最終段落)の後に、字数を増やすために、付け足しをしてはならないと教えておくことです。小論文の添削をしていると、このような字数稼ぎの答案が多く見られますが、配点の高い「論旨の一貫性」「結論は明確か」といった基準に抵触するため、かなりの減点を食らう可能性があります。
深い小論文を書けない生徒に欠けている、通時的な発想
例えば、ストーカーはもちろん犯罪だが、源氏を読むと垣間見として登場している。何度も和歌を贈ることは、現在ならストーカーだ(笑)。また、最近は歩きスマホが問題になっているが、昔ならこの行為は尊敬の対象だった。スマホの代わりに、本を読みながら道を歩いていたのが、勤勉の学徒の象徴、二宮金次郎だ(笑)。
高校生が小論文を書くとき、浅い考察にとどまることが多くあります。そのときに、古典や歴史の知識を生かせないか、という提案です。現代の高校生は、「通時的な発想」に欠けているということです。
2020年は新型コロナウイルスの流行が、大きな話題です。高校生が新型コロナウイルスについて論じるとすれば、多くがテレビやインターネットのニュースで見たものが根拠となり、観測範囲を決めてゆきます。そのときに、例えばペストの流行についての知識があれば、論じる視点は、異なったものになります。
生徒の思考を深めるための問いかけ
小論文のなかに「精神的な豊かさ」という曖昧な語彙を使う生徒がいた。どういう意味かと尋ねても、分からないという。しかし、豊かさとはどういう意味なのか(what)、なぜ精神的な豊かさが大切だと思うのか(why)などと問答を繰り返すと、不意に「精神的な豊かさというのは、社会的なストレスがない状態です」と深い答えが返ってきた。生徒は聞けばわかることばを自発的に発することができない。啐啄の機(※)が必要だ。
※ヒナが卵を内側から叩くときに、親が呼応して叩いてやること。
小論文には、普段の思考の深さが自然と出てくるものです。全体の印象を左右し、当然得点を左右します。思考を深めるには、どういう意味?なぜ?という、問いかけが重要ということです。
なぜ?という問いかけは、因果律ですので、ある程度学力のある生徒向けかも知れません。標準学力の生徒には、具体的な事例や体験を問う形でもよいでしょう。なお、具体・抽象など、国語の本質的な思考については、下の書籍がおすすめです。
小論文の採点基準
- 課題への回答が適切か
- わかりやすい論の進め方か(論点が明確/知識に偏重していない)
- 表現や語句が適切であるか(文体の統一/楷書体で文科省の指定通りの表現)
- 結論、その根拠、具体的な事例が含まれていること
上の内容は、一般的だと思います。詳しくは、次の記事もご覧ください。
小論文指導にあたり、よく受けるご質問

筆者が、高校の生徒や先生方からよく受けるご質問と、その答えをまとめました。
このほかご質問があれば、コメント頂けると助かります。
Q 現代文の評論は、冒頭に結論を示さないことが多いと感じますが、英語のように結論から書かせた方が良いのでしょうか?
A 編集中です
Q 小論文は次の段落構成がスタンダードだと聞いていますが。
- 問題提起(イエスかノーに持ち込む)
- 反対意見への譲歩
- 反論
- 理由
- 結論
A 一部の出題にしか適合しない、欠陥を含む構成です。
ご指摘の段落構成は、大学受験の小論文指導において、一定のシェアを持っていますが、一部の出題にしか対応できません。小論文出題の発想は、次の3通りがあります。
- 二項対立型 … 死刑制度について、自由に論じなさい。
- 因果関係型 … あなたの地域の課題を1つ取り上げ、自由に論じなさい。
- 本質追及型 … 人とともに生きるとはどういうことか、自由に論じなさい。
ご指摘の段落構成は、賛否が分かれる、二項対立型にしか対応しません。生徒が試験場で混乱するだけでなく、志望理由書、作文、面接でのトークの流れとの親和性がなく、高校全体として大きなロスになります。
確かに[反対の意見]、しかし[反論]の形は、オプションのテクニックとして、小論文に慣れてきた生徒に教えるなら効果的です。
ただし、学習初期の生徒は、反対の意見への反論が弱く、論旨が乱れてしまったり、双方の意見を俯瞰できなかったり、大失敗することが多くなります。例えば、「制服は必要か」「校則は必要か」など、身近なテーマでアクティブラーニング(ディスカッション)をさせるなど、時間をかけて、説明することが必要です。
Q 小論文は、作文ではないので個人的な体験を書くのでなく、一般的な理由を書くべきではないのでしょうか?
A 高校生が、試験場で資料を使わずに小論文を書く場合、体験談は武器として必要です。
小論文の本論には、結論の客観的根拠を示す役割があります。そのため、可能なら資料(データや文献からの引用)が望ましいです。しかし、課題文に書いてあったり、学習として暗記してあったりしない限り、試験場では使いづらくなります。
そのため、抽象度を高くした「理由」という範疇が、もっとも活躍するのですが、小論文が苦手な生徒は、理由を思いつかないことが多々あります。そのとき、体験談を書いていると、頭のなかで一般化が進み、理由としてまとまることがあります。
したがって、大学・短大・専門学校入試の小論文では、ある程度体験を記述することを許容してもよいでしょう。体験を書いてはいけないと決めつけると、字数不足、時間切れにつながりかねません。ただし、多くの人にあてはまらない個性的な体験を書くのは避けます。「こうした体験は、私だけのものではないはずだ」と書き添えられるくらい、普遍的な体験を書かせるように心がけます。
文章指導においては、「理由」は抽象でなく、具体の範疇に含まれると考えたほうが実践的です。
例えば、「彼は人望がない。なぜなら、視野が狭いからだ」というような抽象的な理由づけでは、説得力のある発話とはなりません。「彼は人望がない。自分と異なる意見には、ほぼ耳を傾けないし、どんなときも絶対に持論を曲げないからだ」のように、具体的な理由のほうが説得力を持ちます。
「理由」というのは、具体例や体験とは、別の範疇のものだと考えている方も多数いらっしゃいます。しかし、小論文の指導では、具体性の範疇で処理する方が現実的です。中学受験の四谷大塚はこの点を、評価の高い教材である『予習シーズ』内で指摘しています。
憲法九条は改正すべきでない。戦後日本の存在意義そのものに関わるからである。
このように、抽象度が高い「理由」を付記する書き方は、実際にはどのように読まれているのでしょうか? 教員や学力がかなり高い生徒ならば、この理由に納得がいくのはなぜでしょうか?
それは「戦後日本の存在意義」に関して、とくに説明を受けなくても、潜在意識下で、具体的な事例(侵略戦争の反省、唯一の被爆国、非核3原則など)の記憶にアクセスしているからです。これから小論文や社会・文化的な課題に挑戦していこうとする高校生には、確かな具体的証拠を求め、知識を確認しつつの指導が重要です。
予備校業界では、過去にセンター試験評論の出題内容を、全統模試で的中した、河合塾の牧野剛先生(故人)がこの点を指摘しています。氏の授業は、高校生が評論文を読むときに、意識的にも無意識的にもアクセスしやすい社会・文化・科学の具体的な知識への関心を、授業内で喚起していくことで読解力を伸ばすという、本質をついたものでした。現在、大手予備校の現代文講師にも、前提知識は不要、問題文だけで解くという流派がありますが、致命的な誤りだと考えます。
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