古文を勉強する順番を、予備校国語講師経験者が分かりやすく説明します。一般に単語→文法→古文常識などと言われますが、これは誤りです。
単語→文法→古文常識の勉強法は完全に誤り
古文の勉強の順番は、単語から入って、文法とかですかね? まずは、説話とか親しみやすいものから勉強するように言われました。
……やり方は人それぞれですが、高い確率で古文嫌いになる順番です。単語の暗記は単調な作業ですし、現代語と混ざりなかなか覚えられない。文法事項は全く面白みがない丸暗記で挫折しがち。こういった作業をしながら、模試などで古文を読むと、物語がよく出題され、話の筋が全く理解できない。
高校で210時間(※4単位の場合、文科省資料)もの古文の授業を受け、さらにその数倍自宅学習したのに、古文が読めるようにならない人が大半です。これはなぜなのでしょうか?
答えは、高校(文科省も方針に従うしかない)の側と生徒の側の、2重の誤りがあるからです。
- 高校(文科省)側の誤り …要点を絞らない文法の授業が古文嫌いを量産。また、説話から読ませることで、力がつかない。
- 生徒の側の誤り …古文を外国語のようなものと誤解し、英語の勉強法をリピートしてしまう。単語、文法の順に学ぶと、古文は読めるようにならない。
たしかに、高校の授業は、最初説話からやったかも。「稚児ちごのそら寝」とか、先生は面白いでしょっていうけど、1ミリもおもろないから!
そうですよね。「稚児ちごのそら寝」は読みやすいですが、読んでも古文を読む力はつきません。この話は、BLの話を絡めると面白いですが、古文の勉強として時間をかける意味はありません。
では、古文学習で、単語から入るのはなぜ誤りなのでしょうか?
英語 | 古文 |
He is the best player in his team. | 花の色はうつりにけりないたづらに わが身世にふるながめせしまに |
英語は習う前には知らない単語(「チーム」以外)がほとんどです。 | 古文は日本語のため、完全に知らない単語は限られます。(に・けり・せ・き) |
上の例のように、英語は、英語を学ぶ前は知らない単語がほとんどです。そのため、単語から学ぶのは正解です。
古文は、難しいように見えているだけで、完全に知らない単語は少な目です。そのため、単語から学ぶのは誤りです。読解ができるできないを分けるのは、ズバリ「花」が、古文では「はかなく散る桜」であることを知っているかどうか。つまり、古文常識が読解の成否を決めているのです。
古文常識を知っていれば、美しさが失われることを嘆く女性の歌だと理解できます。
なるほど! でも、高校では「いたづらに」のような古今異義語こそ重要と習ったんですが……。
確かに古今異義語は、テストや入試では問われることが多いですが、あくまで応用事項です。例えば英語では、文章を理解するうえで大事なことはSVOCに来ますと習います。そして、SVに来るのは、基本的には名詞や動詞です。
この点は英語も古文も同じで、まずは動詞、名詞を攻略するのがコツで、形容詞・形容動詞は後回しで構いません。
もう1つだけ、古文には知らない単語が少ない証拠を出しておきます。
瀬を早み岩にせかるる滝川の われても末に逢はむとぞ思ふ
この和歌も、知らない日本語は少ないはずです(を~み、せかるる、む)。全体の意味を理解するには、単語よりも、「AをBみ」(文法重要度38位)、あるいは「む」(文法重要度15位)の方が重要です。単語と文法で言えば、文法の方が重要なのです。
また同時に、和歌は恋を読むことが多く、現代で言えば意中の相手に送るLINEのようなものという古文常識も効いてきます。
(現代語訳)川の瀬の流れが速く、岩にせき止められた急流が2つに分かれる。しかしまた1つになるように、愛しいあの人と今は分かれても、いつかはきっと再会しようと思っている。
なるほど! 自分なりに順番を考えると、古文常識→文法(重要事項だけ)→単語(動詞、名詞)→長文を読みながら形容詞、動詞がよさそう。
はい。正解は下のようになります。
予備校講師が推す、ゼロからの古文勉強法がこれ
古文は、知らない単語は少ないから、古文常識や文法からっていうのは、分かりました! 具体的にどういう順番が良いですか?
はい。具体的には、次の順番がおすすめです!
① 古文文法のド基礎(5分で終わります)と、古文文法の基礎20項目を学ぶ
② 古文常識を学ぶ(薄い参考書1冊)、並行して名詞・動詞を100語程度。
==この段階で、古文読解にかなりの手ごたえがつかめます==
③ 「物語」の全訳を進めながら、並行して形容詞・形容動詞を100語程度。
④ 「物語」の入試問題を進めながら、古文文法の応用20項目を学ぶ。
この勉強法で、古文は、驚くほど読めるようになります。所要時間は、次の通りです。
【10時間】① 古文文法のド基礎(5分で終わります)と、古文文法の応用20項目を学ぶ
【10時間】② 古文常識を学ぶ(薄い参考書1冊)、並行して名詞・動詞を100語程度。
【10時間】③ 「物語」の全訳を進めながら、並行して形容詞・形容動詞を100語程度。
【10時間】④ 「物語」の入試問題を進めながら、古文文法の応用20項目を学ぶ。
例えば土日で5時間ずつ古文に使えれば、1か月で驚くほど読めるようになります。
①ー1 古文文法のド基礎を学ぶ(5分)
高校の古文文法は、専用の教科書を使って、何十時間もかけるわりには、苦手を量産しています。かつて、その状態に革命を起こし、勉強量大幅に減らしたのが、望月先生の『古文文法実況中継』です。
望月光 古典文法講義の実況中継(1) (実況中継シリーズ)|Amazon
当サイト「受験ネット」では、上の参考書も十分に研究し、さらに削減に成功していますが、得点力への影響が少ないように工夫していますので、ご安心ください。ただ、実況中継は当サイトと相性が良い参考書ですので、持っていて損はありません。
動詞、助動詞をマスターするために必要な3つの知識
古文文法のヤマは、動詞、助動詞です。いきなり、動詞の説明から入ることもできますが、予備校で教えていて、その前に、最低でもこの3つは知っておくとスムーズだと感じた知識を紹介します。3つあります。
① 古文を単語に分ける知識
例題 単語に分けなさい
人なくて、つれづれなれば、夕暮のいたう霞みたるに紛れて、
英語だと、単語に分かれてるけど、古文はくっついてるからな……。
「人・なくて・つれづれ・なれ・ば・夕暮・の・いたう・霞み・たる・に・紛れて」ではどうでしょう??
いい線行ってますが、正解は「人・なく・て・形動 つれづれなれ・ば・夕暮・の・いたう・霞み たる・に・紛れ・て」です。古文初心者は、何となく意味のカタマリで古文を見ていますが、得意な人は、普段はそうでもここぞというときに切り替えます。
- 普段 … 「花の色は」「うつりにけりな」「いたづらに」
- 赤字に疑問を持った時 … うつり・に・けり・な|(訳)色あせてしまったのだなあ
常に単語に分ける必要はありませんが、あれ?と思たときに即座に単語に分け、辞書を調べる習慣が必要です。
② 最低限の品詞の知識
高校カリキュラムでは、1日かけて品詞の知識を学ぶことがありますが、こんな品詞があるのか程度で大丈夫です。
品詞は、動詞・助動詞・名詞・形容(動)詞・副詞の順に重要です。ほかは読解や入試では、重要でないので、当面は知らなくても構いません。
例題 品詞を言いなさい
人・なく・て・つれづれなれ・ば・夕暮・の・いたう・霞みたる・に・紛れ・て
ヒントは、状態を表すのは形容詞か形容動詞、変化しないのは主に助詞だそうですよ!
- 人 … 名詞(ものの名前)
- なく(なし) … 形容詞(状態を説明。言い切りが「し」で終わる)
- て … 助詞(形が変化しない。現代語では、「は」「が」「の」など)
- つれづれなれ(つれづれなり) … 形容動詞(状態を説明。言い切りが、主に「なり」で終わる)
- 夕暮 … 名詞
- いたう … 副詞(様々な語句を説明する。形が変化しない。あとまわしでも良い品詞)
- 霞み(霞む) … 動詞(動きを示す役割)
- たる … 助動詞(形が変化する)
- 紛れ(紛る) … 動詞
③ 連体形、連用形の役割
未然、連用とか、中学からやってるけど、意味わかりまへん💦
未然、連用、終止、連体、已然、命令形は中3で習うため、高校では基本的には説明しません。しかし、高校入試は5教科もあり、古文文法は最後に詰め込むケースが大半。よく分からないまま、つまづきポイントになっている生徒がいます。
まず、終止形は「。」の前に来るということは知っている人が多いため、確認程度に留めます。ただし、古文では「と、とて」の前に来るケースもあります(これは案外重要!)。
終止形以外では、連体形と連用形が分かれば十分です。
連体形は、体言の前にきます。体言とは、活用(変化)しない語の総称で、名詞は体言の1つです。
- (現文)きれいな人
- (古文)きよげなる人
連用形は、用言の前にきます。用言とは、活用(変化)する語の総称で、動詞は用言の1つです。
- (現文)きれいに咲く
- (古文)きよげに咲く
「きよげなる」「きよげに」は形容動詞ですが、終止形は「きよげなり」です。
①ー2 古文文法の基礎20項目を学ぶ
古文の助動詞! 僕や多くの同志が討ち死にした場所である💦
まさに、その通りで、中学では国語が得意でも、高校で嫌いになったという人が多いのが古文。その、最大のつまづきポイントは助動詞。なぜ、挫折しやすいのでしょうか?
答えは、英文法のように、優先度が示されていないからです(英文法の参考書を買えば、どの本でも重要度が一目瞭然です)。例えば、「下一段動詞」と「下二段動詞」の入試出現率は、天と地ほどの差がありますが、高校の授業では、全く平等に暗記させることになっています。
- 下一段動詞 … 該当は「蹴る」の1語のみ。選ばれた文章に登場でもしない限り、まず出題されません。
- 下二段動詞 … 助動詞理解の要! この上なく重要です。
古文文法の頻出20項目(動詞、助動詞メイン)を学ぶためのランキングには、この辺りの重要度が完璧に反映されています。つまり、無駄なく動詞、助動詞をマスターできるのです。
上のランキングでは、「る・らる・す・さす・しむ・つ」は暗記しなくてよいシステムが採用されています。なぜなら、まず下二段型の活用表を押さえた上で(第1位)、「る・らる・す・さす・しむ・つ」は、下二段と暗記すればよいからです(第8位)。
高校のやり方
- 下二段も下一段も全部暗記しなさい。「る・らる・す・さす・しむ・つ」は6種類の活用表を全部暗記しなさい。
受験ネットの考え方
第1位として動詞の「下二段型」を覚えてください →
- 下二段型は、応用性が非常に高いから最優先。
- 下一段、上一段は、最初は無視して構いません。
すると、「る・らる・す・さす・しむ・つ」の暗記は不要です。
- 全体の重要度を比べ「8位」に置きました。
ただし、定期試験では、下二段、下一段、上一段は、平等に問われます。学校推薦型選抜(旧指定校、公募推薦)の利用も考えている生徒は、評定が必要ですので、高校の方針を守ってください( 重要ランキングベスト40 に出てこない知識は、全日に暗記する程度でもOKです)。
(息抜き)古文は、実は死んでいない
英語は将来使える生きた学問だけど、古文は死んでるような気が……。
古文は死んだ学問。そう思うのも無理はありませんね。
古文に親しみがわかない場合、読むと効果があるのは『ちはやふる』です。百人一首は、助動詞の宝庫ですので、 【助動詞・識別・動詞】古文文法 重要ランキングベスト40 を勉強しながら読むと効果的です。(下のサイトに立ち読みあり)
また、現代語にも古文は多く残っており、文章力にもつながってきます。
- けりをつける … 「けり」は蹴りではなく、和歌の最後を締めるため、終結の意味です。
- 寝るな … 「な」は、古文の「な…そ」(禁止、文法33位)が省略されたもの。
- 急がば回れ … 中学でも習う、已然形+ば(もし~ならば、文法27位)
- ~と思いきや … 「き」は、過去の助動詞。
- 愛しき人 … 「愛しき」は、形容詞の連体形。
③ 古文常識を学ぶ(薄い参考書1冊)、並行して名詞・動詞を100語程度。
古文常識なんて、古文好きが最後に買う参考書だと思ってました。
そうなんです。説明してきたように、古文は現代語と単語は似ていますので、古文常識や助動詞がカギになります。例えば、共通テスト(当時はセンター試験)で、もっとも難しい回の1つである2013年の古文を冒頭を掲載します。
つとめて、御文やらせ給はんも、せん方のおはしませねば、いと心もとなくて過ぐし給ひけるに、主人のまゐり給うて、「昨日の浦風は、御身には染ませ給はぬにや。いと心もとなくて」と啓し給へば、琴の音にやあるらんと思して、「めづらしき色香にこそ候へつれ。唐琴にや、ゆかしくこそ」とのたまはすれば、思はずながら取り寄せつ。
かなり難しい文章で、回答時間20分を考慮すると、受験生は撃沈。予備校の講師でも、時間不足を感じる問題でした。古文そのものでは、難しいと思いますので、リード文を見ます。
古文常識の威力を知る
東国に下った右衛門督は下総守の家に滞在中、浦風に乗って聞こえてきた琴の音を頼りに守の娘のもとを訪れ、一夜を過ごした。以下の文章は、それに続くものである。
古文常識を学んだ人は、上のたった2行から、かなり多くの情報を抜き取ります。
- 東国に下った右衛門督 … 京都から東へ行った、えらい貴族(若くして第4位クラスの国家公務員)だな。国家公務員は、当時、唯一安定した仕事だったんだよな。
- 下総守 … 千葉県知事(第6位クラスの国家公務員)か。そんなに偉くないだろうな。
- 一夜を過ごした ‥ これは知事家にとって、玉の輿の最大のチャンス。
これだけの情報があると、本文を読めば、娘の玉の輿をやきもきしながら応援する、県知事家族のドタバタ劇であることが、すぐ分かります。このことは、古文単語の辞書を持ち込んで良いとしても、理解するまでにはかなりの時間がかかります。
古文常識 ⇔
- 古文読解の上で、すさまじく効率の良い武器。
- 参考書は1時間で読み終わる。
古文単語
- 600語もある単語集も
- 全て暗記しても、読めるようになるわけではない。
古文常識の勉強法
古文常識の勉強法は、下のいずれかの参考書を何度も読むだけです。好きな方で構いませんが、少しでも苦手意識があるなら、マドンナがおすすめです。刊行から月日が経ちましたが、内容に全く問題はありません。
古文常識は、まとめノートを作るほど、やりこむ必要はありませんが、読んで線を引くだけでは軽すぎます。ポストイットに自分なりのまとめを書いて、参考書に貼り付けるような勉強法、松竹梅でいうと、「竹クラス」の勉強法がふさわしいです。
古文単語(名詞・動詞)の勉強法
古文常識と同時進行で行いたいのが、古文単語の学習です。古文単語学習の最大のコツは、名詞・動詞を優先すること。重要度が分かる単語帳ならどれでも構いませんので、名詞・動詞だけ100語程度を暗記します。勉強法は丸暗記で構いません(例えば、ふみ=漢詩・漢文・手紙)。
名詞・動詞は丸暗記でよく、形容詞・形容動詞を分けて学ぶ理由は、特別記事に記しましたので、関心があればご確認ください。
特別記事 【独自】元予備校講師が特別記事だけで明かす、受験成功術
④ 「物語」の全訳を進めながら、並行して形容詞・形容動詞を100語程度。
助動詞、古文常識、名詞・動詞だけをゴリゴリやったら、突然古文が読めてきました! 高校で200時間勉強して読めなかったのに、20時間くらいで何とかなってきて、やる気も出ました!
そうなんです。単語を600語も覚えるなら、助動詞を正しく絞って学び、古文常識を何周かした方が、数段早く読めるようになります。単語は、丸暗記で良い名詞・動詞を100語程度なら、本気を出せば5時間で終わるはずです!
少し読めるようになってきた段階で、「物語」の全訳に取り組むと良いです。読んだことのない古文でも、高校で学んだ古文でも構いません。ノートをきちんと取ってあるなら、高校で学んだ物語の方が、負担は軽いでしょう。しかし、新規一転新しい参考書でも構いません。
とくに助動詞に注意しながら、ノートに全訳をしてみてください。
古文単語(形容詞・形容動詞)の勉強法
ノートに全訳をしながら、出てきた形容動詞・形容動詞は、極力覚えるようにしてください。ただし、意味を暗記するのではなく、文脈から「イメージ」をつかんだ方が効果が出ます。
全訳を軸にすると、単語数が落ちますので、古文単語集でも、形容詞・形容動詞を、学んでください。このときも例文を重視して、文脈から「イメージ」をつかんでください。意味の丸暗記はダメです。丸暗記では、文章の意味が取りにくくなり、ひっかけ問題にもひっかかります。
形容詞・形容動詞の意味を問うひっかけ問題
- ひっかけの選択肢 … 単語帳の意味を使うが、こっそり誤りを含ませたもの。
- 正解の選択肢 … 「イメージ」からは訳出できるが、単語帳ではあまり見かけないもの。
名詞・動詞は丸暗記でよく、形容詞・形容動詞を分けて学ぶ理由は、特別記事に記しましたので、関心があればご確認ください。
特別記事 【独自】元予備校講師が特別記事だけで明かす、受験成功術
【⑤「物語」の入試問題を進めながら、古文文法の重要20項目を学ぶ】は現在準備中です。下のはてなブックマークでこの記事を記録するか、「受験ネット」で検索をお願いいたします。
コメント
ためになることが多く、わかりやすかったです!しかし、最初の単語に分けるのところですが、単語に分けるためにはすべての品詞を理解する必要があると言うことですか?理解しないまま単語分けをすると、単語分けの時点で間違えが発生する気がするのですが…