【速報】2023年共通テスト国語第3問古文 本文・設問解説・現代語訳

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2023年共通テスト国語第3問古文の本文・設問解説です。復習にぜひご活用ください。現在、簡易版(速報版)を掲載中です。

問題と正解はこちらから。

フジテレビ ニュース出演時(加藤)

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受験ネットは、関東一円で①高校への講師派遣、②通信指導、③個別塾事業を展開しています。代表加藤は、早大卒、予備校講師を経て国家資格キャリアコンサルタント(登録番号20022587登録証)。高校内講演に年80回(出講例①出講例②出講例③)。事業・代表プロフィール詳細
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【必ず読んでください!】難易度、裏ワザ的な読み方、2023年リード文解説

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リード文、注、設問からしっかりヒントを拾っていれば、比較的状況は分かりやすい問題でした。

しかし、誰が連歌の発句を読んだのかなど、やや紛らわしい部分もあり、また掛詞に関する設問もやや難しく、受験生にとって、満点は簡単ではないという印象です。

入試の古文は、下の図のような読み方がカギになります。高3・浪人生の方は、国公立2次や、私大の古文でも生きますので、ぜひマスターしてください。高2以下で古文嫌いの方は「治る」可能性も高いです。

古文は、学者が読んでも難しいものが多いです。試験を作る側も、ノーヒントで読めるとは、考えていません。そのため、リード文、注釈、設問にかなりヒントを入れています。古文は、ヒント5割、本文5割で読むものです。

まず、リード文、注釈、設問では、「いつ、どこで、誰が、何を」の部分をつかみます。2023年度の問題では、リード文で、皇后の父が所有する豪邸で、身分の高い殿上人たちが、船遊びをすることが、はっきり書かれています。これで、読むのは相当楽になります。

注9では、「連歌」と出てきますので、船上で連歌のイベントが催されることが分かります。現在、ジャズという音楽があり、前の人の演奏を受けて、次の人が即興で演奏をする、ユニークな音楽です。連歌は、それと似て、(テニスで言えば)前の人のサーブを、後の人が返しますので、難しい球が来ることもあり、腕の見せ所です。

問3では、リード文や注釈になかった「良暹」という人物が何度か出てきます。あえて、リード文や注釈出していないことで、逆にカギとなる人物ではないかと想像することもできます。(結果的に、良暹は、読解を大きく左右する人物でしたので、平均点を上げ過ぎないよう、リード文や注であえて触れずに、難度を調整した可能性があります)

本文では、「誰が、どう感じた、なぜ」をつかみます。2023年の本文については、後半で解説しますが、読み方について、次のページかビデオ見ておくと非常に伸びます。

「古文が読めない」を20分で解決! 共通テストで裏ワザ解説

2023年度古文 本文全文と解説

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本文は、「誰が、どう感じた、なぜ」にチェックを入れながら読むのがコツです! これに基づき、2023年の本文を、手早く説明します。

まず本文の全文を示します。(細かい漢字の使用・不使用等、共通テストの整合性は未調整です)

1⃣宮司ども集まりて、船をばいかがすべき、紅葉を多くとりにやりて、船の屋形にして、船さしは侍の若からむをさしたれば、俄に狩袴染などをしてきらめきけり。その日になりて、人々、皆参り集まりぬ。「御船はまうけたりや」と、尋ねられければ、「皆まうけて侍り」と申して、その期になりて、島がくれより漕ぎ出でたるを見れば、なにとなく、ひた照りなる船を二つ、装ぞき出でたるけしき、いとをかしかりけり。

2⃣人々、皆乗り分かれて、管絃の具ども、御前より申し出だして、そのことする人々、前に置きて、やうやう、さしまはすほどに、南の普賢堂に、宇治の僧正、僧都の君と申しける時、御修法しておはしけるに、かかることありとて、もろもろの僧たち、大人、若き、集まりて、庭にゐなみたり、童、供法師に至るまで、繍花装束きて、さし退きつつ、群がれゐたり。

3⃣その中に、良暹といへる歌詠みのありけるを、殿上人、見知りてあれば、「良暹がさぶらふか」と問ひければ、良暹、目もなく笑みて、ひらがりてさぶらひければ、かたはらに若き僧の侍りけるが知り、「さに侍り」申しければ、「あれ、船に召して乗せて、連歌などせさせむは、いかがあるべき」といま一つの船の人々に申し合はせければ、「いかが、あるべからず。後の人や、さらでもありぬべかりけることかな、とや申さむ」などありければ、さもあることとて、乗せずして、たださながら、連歌などはせさせてむ、など定めて、近う漕ぎ寄せて、「良暹、さりぬべからむ連歌など、して参らせよ」と人々申されければ、さる者にて、もしさやうのこともやあるとて、まうけたりけるにや、聞きけるままに、ほどもなく、かたはらの僧にものを言いければ、その僧ことごとしく歩み寄りて、

  「もみぢ葉の こがれてみゆる みふねかな

と申し侍るなり」と申しかけて、帰りぬ。

4⃣人々、これを聞きて、 船々に聞かせて、付けむとしけるが、遅かりければ、船を漕ぐともなくて、やうやう築島をめぐりて、一めぐりの程に付けて言はむとしけるに、え付けざりければ、むなしく過ぎにけり。いかに遅し、とたがひに船々争ひて、二めぐりになりにけり。なほえ付けざりければ、船を漕がで、島の隠れにて、「かへすがへすもわろきことなり。これを今まで付けぬは。日はみな暮れぬ。いかがせむずる」と、今は付けむの心はなくて、付けでやみなむことを嘆くほどに、何ごとも覚えずなりぬ。

5⃣ことごとしく、管絃の物の具申しおろして船に乗せたりけるも、いささかかき鳴らす人もなくてやみにけり。かく言ひ沙汰するほどに、普賢堂の前にそこばく多かりつる人、みな立ちにけり。人々、船より降りて御前にて遊ばむなど思ひけれど、このことにたがひてみな逃げておのおの失せにけり。宮司、まうけしたりけれど、いたづらにてやみにけり。

すでに、リード文、注、設問の前読み(「いつ、どこで、誰が、何を」)で、場面、人物、あらすじをつかんでいるはずです。本文は、「誰が、どう感じた、なぜ」にチェックを入れながら、読むのがコツです。

1⃣ リード文、注、設問の前読みで完全にバレてしまっていますが、皇后の父が所有する豪邸で、身分の高い殿上人たちが、船遊びをすることが分かれば十分です。

現在なら、大物芸能関係者の豪邸に招かれ、庭の池に船を出し、ジャズの演奏会(前半が演奏されたら、即興で後半を演奏)をするような、楽しみで華やかな場面です。このように、現代に置き換えることで、古文は読みやすくなります。

現代と違うのは、昔の身分が高い人にとって、和歌や連歌は、失敗すれば育ちを疑われるような、緊張を伴う勝負の場でもあったことです。現在なら、まるで芸能人格付けチェックの雰囲気です。

2⃣ 豪邸にちょうど居合わせた、僧正(えらいお坊さん)が、イベントに参加してきます。このなかに、良暹りょうぜんという一介の僧がいます。ここまでは、心情の変化に乏しく、「誰が、どう感じた、なぜ」の出番は少ないですが、殿上人や居合わせた僧たちが、ワクワクしている気持ちを感じ取ると、読みやすいです。なぜなら、華やかな豪邸での歌のイベントに参加したり、見学したりする、またとない機会だからです。

3⃣ もう1度、本文を掲載します。

3⃣その中に、良暹といへる歌詠みのありけるを、殿上人、見知りてあれば、「良暹がさぶらふか」と問ひければ、良暹、目もなく笑みて、ひらがりてさぶらひければ、かたはらに若き僧の侍りけるが知り、「さに侍り」申しければ、「あれ、船に召して乗せて、連歌などせさせむは、いかがあるべき」といま一つの船の人々に申し合はせければ、「いかが、あるべからず。後の人や、さらでもありぬべかりけることかな、とや申さむ」などありければ、さもあることとて、乗せずして、たださながら、連歌などはせさせてむ、など定めて、近う漕ぎ寄せて、「良暹、さりぬべからむ連歌など、して参らせよ」と人々申されければ、さる者にて、もしさやうのこともやあるとて、まうけたりけるにや、聞きけるままに、ほどもなく、かたはらの僧にものを言いければ、その僧ことごとしく歩み寄りて、

  「もみぢ葉のこがれてみゆるみふねかな

と申し侍るなり」と申しかけて、帰りぬ。

良暹、目もなく笑みて、ひらがりてさぶらひければ、

「誰が、どう感じた、なぜ」

一介の僧である良暹は、姿勢を低くその場に控えています。良暹は、身分の高い人の晴れ舞台で、失礼があってはならないと、かしこまる気持ちでいたのでしょう。ただ、目を細めて笑う表情から、どういった心情を読み取るのかは難しく、高校の後追い授業で、興味深く扱ってくださいということかも知れません。

(人々)「いかが、あるべからず。後の人や、さらでもありぬべかりけることかな、とや申さむ」などありければ、

「誰が、どう感じた、なぜ」

身分の高い人々は、一介の僧である良暹を船に乗せることについて、「あるべからず」つまり、あってはならないことだと、厳しい見方をしています。なぜなら、僧正ならともかく、一介の僧では身分がかなり異なり、後々、批判されても良くないと考えたようです。現代人には理解しづらいセンスですが、例えば、皇族の結婚式に有名なプロのジャズ演奏家が招かれ、そのときに良い演奏をしそうだとその辺の大学生を連れて行くような雰囲気となるでしょう。

まうけたりけるにや(まうく=準備する)

「誰が、どう感じた、なぜ」

作者は、良暹は歌を準備していたのではないかと推測しています。なぜそう判断したのでしょうか? 恐らく、急に歌を求められて、「聞きけるままに、ほどもなく」別の僧に和歌を伝えた素早さにそう感じたのでしょう。また、指名されそうになった良暹が「目もなく笑みて」と、案外余裕のある表情だったことも、この推測の根拠になっているかも知れません。

4⃣ 

人々、これを聞きて、 船々に聞かせて、付けむとしけるが、遅かりければ、船を漕ぐともなくて、

「誰が、どう感じた、なぜ」

身分の高い人々は、船を漕ぐ手を止めてしまいます。和歌への返歌を思いつかず、焦っているのでしょう。今回は、一介の僧に、即興で命じた歌に、そうそうたるメンバーが、誰も返歌を言い出せない状況です。テニスなら、中学生のサーブを、プロが返し損ねている場面です。歌の実力は、育ちを問われますので、芸能人格付けチェックで言えば、もはや写す価値なしという立場になり、大変焦っているはずです。

古文はたかだか千年前後、昔の話

今回は、皇后のために、貴族たちが屋敷の庭の池に船を出し、連歌で争う話でした。ふざけて、そこにいた一介のお坊さんに発句を読ませたところ、案外返せなくなり、大恥という話です。

これは、ジャニーズ事務所社長の藤島ジュリー景子のために、関ジャニ∞がバンドを演奏するようなシーンです。今回は、ジャズ(前の人の演奏を受けて、次の人が即興で演奏をする、ユニークな音楽)を披露します。

しかし、メンバーの思い付きで、そばにいたお掃除のスタッフにギターを渡し、初めの一節の演奏をさせます。すると、案外難しいコード進行で、うまくコードがつなげなかったようなシーンです。ジャニーズとはいえ、ミュージシャンですので、その慌てぶりや、恥ずかしい思いは想像が難しくありません。

このように、古文は、現代に話をつないでみると、苦手意識は吹き飛びます。

2023年度古文 設問解説

おおまかな解説となっています。

問1
ア 傍線部解釈の問題は、まず傍線部そのものを品詞分解し、どの単語が問われているのか予想し、選択肢を絞るのがおすすめです。次に文脈判断します。
アは「やうやう」から3、4、5ですが、「まはす」を回すと漢字に直し、3を選びます。

イ「ことごとし」の意味から4。

ウ文脈判断、あるいは現代語の感覚から2を選びます。

問2 いずれも古文文法の頻出事項からの出題です。

問2① 古文文法第4位  未然形接続の助動詞
問2② 古文文法第23位 丁寧語は2語
問2③ 古文文法第13位 係り結びの基本
問2④ 古文文法第7位 助動詞 ず き の活用表
問2⑤ 古文文法第16位 「なり」の識別」

①形容詞のカリ活用の知識から、若から|むと品詞分解します。
②「若き僧」からが誤り。
③正解
④文脈判断で「ぬ」は打ち消し
⑤文脈判断で「なり」は動詞(成る)

問3
①当日になってが誤り
②呼び集めたが誤り
③喜びを感じていたが誤り。「笑みて」の時点ではまだ句を求められていない。
④管弦や~考え、が誤り。
⑤正解

問4(ⅰ)
掛詞と聞いてまず思いつくのが④「澄む」かもしれないが、「そこ」に「あなた」という意味を掛けては誤り。引っかけの選択肢か? ④が最も自然。

問4(ⅱ)
①正解
②恋心が誤り。
③栄華を極めた藤原氏などの内容が誤り。
④参加者の心を癒したいという思いが誤り。

問4(ⅲ)
①良暹を指名した責任が誤り
②自身の無能さを自覚は、言い過ぎ。どうしたらよいかと慌てたり、嘆いたりした様子から、焦りや落胆の心情が読み取れるため。
③正解
④準備をしていたのは宮司だし、宴は催さなかったので誤り。

2023年度古文 現代語訳

速報性重視で作成のため、口語訳の細かい点はご調整ください。また、本文部分の細かい漢字の使用・不使用等、共通テストの整合性は未調整です。

1️⃣ 宮司(皇居の役人)たちが集まって、船はどうするのが良いだろうかと、紅葉を数多く集めさせ船上の小屋に飾り、船を操作する人は、若いと見受ける従者を指名したところ、狩り用の袴を染めて、華やかに着飾った。その日になって、人々が皆参上し集まった。「御船の準備は済ませたか」とお尋ねになったので、(宮司は)「皆用意できております」と申し上げて、その時間になって、島の陰から船が漕ぎ出してきたのを見ると、全体が華やかな印象の船を2艘、飾り立てて出てきた様子は、非常に美しいものだった。

1⃣宮司ども集まりて、船をばいかがすべき、紅葉を多くとりにやりて、船の屋形にして、船さしは侍の若からむをさしたれば、俄に狩袴染などをしてきらめきけり。その日になりて、人々、皆参り集まりぬ。「御船はまうけたりや」と、尋ねられければ、「皆まうけて侍り」と申して、その期になりて、島がくれより漕ぎ出でたるを見れば、なにとなく、ひた照りなる船を二つ、装ぞき出でたるけしき、いとをかしかりけり。

2⃣人々は、船に乗り分かれて、管絃の楽器などを、皇后からお借り申し上げ、そのこと(演奏)をする人々を、船の前方に配置し、徐々に船を動かすうちに、南の普賢堂で、宇治の僧正が、まだ僧都の君と申しあげていた時、御修法をしていらっしゃったが、このようなこと(船遊び)があると聞いて、すべての僧たち、長老も若い僧も集まって、庭に並んで座っていた。童やお供の法師に至るまで、花の刺繍をした装束を着て、僧たちの後ろに控えつつ群がっていた。

2⃣人々、皆乗り分かれて、管絃の具ども、御前より申し出だして、そのことする人々、前に置きて、やうやう、さしまはすほどに、南の普賢堂に、宇治の僧正、僧都の君と申しける時、御修法しておはしけるに、かかることありとて、もろもろの僧たち、大人、若き、集まりて、庭にゐなみたり、童、供法師に至るまで、繍花装束きて、さし退きつつ、群がれゐたり。

3⃣その中に、良暹という歌詠みがいたのを、ある殿上人が顔を知っているので、「良暹が控えているのか」とお尋ねになると、良暹は、目を細くして笑って平伏していると、側に若い僧がいたのが見つけ、「その通りでございます」と申し上げたので、(殿上人は)「その者を、船に招待して乗せて、連歌などさせるのはどうだろう」と、もう1つの船の人々に相談したところ、(人々は)「どうだろうか。あってはならないことだ。後世の人が、『船に乗せないとしても、(歌を詠ませるだけでも)あって良いことだろうか』と言うだろう」などと言うので、それもそうだと、乗せずにただその場で連歌などをさせようなどと決めて、(地上に控える良暹の)近くに船を漕ぎ寄せて、「良暹、この場にふさわしいような連歌など、して申し上げよ」と、人々がおっしゃったので、(作者の推測として、良暹は)気の利いた者で、もしかするとそういう事もあるかもしれないと思って準備していたのだろうか(推測終わり)、(良暹は指示を)聞くとすぐに間もなく、そばにいた僧に何か言ったので、その僧はもったいぶって船に歩み寄って、
「『もみぢ葉の こがれてみゆる 御船かな』と申しております」と申しあげて、もとの場所に戻った。

3⃣その中に、良暹といへる歌詠みのありけるを、殿上人、見知りてあれば、「良暹がさぶらふか」と問ひければ、良暹、目もなく笑みて、ひらがりてさぶらひければ、かたはらに若き僧の侍りけるが知り、「さに侍り」申しければ、「あれ、船に召して乗せて、連歌などせさせむは、いかがあるべき」といま一つの船の人々に申し合はせければ、「いかが、あるべからず。後の人や、さらでもありぬべかりけることかな、とや申さむ」などありければ、さもあることとて、乗せずして、たださながら、連歌などはせさせてむ、など定めて、近う漕ぎ寄せて、「良暹、さりぬべからむ連歌など、して参らせよ」と人々申されければ、さる者にて、もしさやうのこともやあるとて、まうけたりけるにや、聞きけるままに、ほどもなく、かたはらの僧にものを言いければ、その僧ことごとしく歩み寄りて、
  「もみぢ葉の こがれてみゆる みふねかな
と申し侍るなり」と申しかけて、帰りぬ。

4⃣人々は、これを聞いてすべての船に聞かせ、続けて句を付けようとしたが、遅れていたので、船を漕ぐともなくゆっくりと築島をまわって、ひとまわりするうちに句を付けて言おうとしたが、句が付られずむなしく時がたっていった。「どうした」「遅い」と互いに船どうしで争って、築島をふたまわりしてしまった。それでもまだできなかったので、船を漕ぐのはやめて、島の陰で「なんともかんとも恰好の悪いことだ。これ(句)を今まで付けないのは。日はすっかり暮れてしまった。どうしたらよかろう」と、もはや付けようという気もなく、付けないままで終わることを嘆くうちに、何も考えられなくなってしまった。

4⃣人々、これを聞きて、 船々に聞かせて、付けむとしけるが、遅かりければ、船を漕ぐともなくて、やうやう築島をめぐりて、一めぐりの程に付けて言はむとしけるに、え付けざりければ、むなしく過ぎにけり。いかに遅し、とたがひに船々争ひて、二めぐりになりにけり。なほえ付けざりければ、船を漕がで、島の隠れにて、「かへすがへすもわろきことなり。これを今まで付けぬは。日はみな暮れぬ。いかがせむずる」と、今は付けむの心はなくて、付けでやみなむことを嘆くほどに、何ごとも覚えずなりぬ。

5⃣大げさに管絃の楽器をお借りして降ろして船に乗せたのだが、ちっともかき鳴らす人もなくそのままになった。あれこれ言っているうちに、普賢堂の前に大勢集まっていた人々もみな立ち去った。人々は、船から降りて皇后の御前で管弦の遊びをしようかなどと思っていたけれど、この予定が狂ってしまったので、みな逃げるようにそれぞれいなくなってしまった。宮司は、準備を整えたのだが、無駄になって終わってしまったのであった。

5⃣ことごとしく、管絃の物の具申しおろして船に乗せたりけるも、いささかかき鳴らす人もなくてやみにけり。かく言ひ沙汰するほどに、普賢堂の前にそこばく多かりつる人、みな立ちにけり。人々、船より降りて御前にて遊ばむなど思ひけれど、このことにたがひてみな逃げておのおの失せにけり。宮司、まうけしたりけれど、いたづらにてやみにけり。

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