古文の話の筋が全くに近いほど分からないです。身分関係の把握が大事だと聞いたことがあるのですが、何を理解しておけばいいでしょうか?
Q 古文の話の筋が全くに近いほど分からないです。身分関係の把握が大事だと聞いたことがあるのですが、何を理解しておけばいいでしょうか?
A はい。古文のなかで特に意味を取りづらいのは、物語や、物語調の随想です。いずれも登場人物や作者が、身分関係を強く意識して行動しますので、身分把握は必須です。
大前提として、物語・随想に多く登場する貴族は、現代で言えば、政治家や役人ような人たちと理解しておきます。ただし政治の一環として華やかな儀式も多く「華やかに暮らす、政治家や偉い役人(官僚)たち」と見て良いです。
貴族の身分はシンプルで、重要なのは1~6位となっています。
位階 | 主な呼称 | 役割のイメージ | 高校なら |
権力者 | 天皇・摂政・関白 | 首相・官房長官 | 校長・教頭 |
1~3位(20人前後?) | 大臣・大納言・中納言 | 内閣の各大臣(=意思決定) | 生徒会 |
4~6位(800人前後?) | 参議・中将・蔵人 | 官僚(=実務) | 各委員会 |
5~6位 | 守(県知事のイメージ) | 役人 | 学級委員(級長) |
1~3位は内閣にあたり、話し合いや議決が主な仕事。上達部と呼ばれますが、4位の参議も例外的に上達部に含みます。
天皇のそばで実務を行うことができるのは、6位の蔵人までとなり、殿上人と呼ばれます。同じ6位でも守や介(副知事のイメージ)は、天皇のそばに上がることができませんでた。
権力者 天皇・摂政・関白の仕事は?
位階 | 主な呼称 | 役割のイメージ | 高校なら |
権力者 | 天皇・摂政・関白 | 首相・官房長官 | 校長・教頭 |
摂政や関白は、天皇を支える形で政治を動かすと、日本史で習いました!
はい。その通りです。幼少の天皇につくのが摂政、成人なら関白と呼ばれます。関白とは、天皇に集まる情報すべてに関わるというのが語源です。
摂政・関白は、藤原家が独占しましたが、多くの場合次期天皇(皇太子)と、自分の娘を結婚させることで義理の父になり、摂政や関白の地位を得る方法が取られました。天皇としても、自分の妻の父親が自分を補佐してくれるのは、自然なことかと思います。
内閣 大臣(おとど)・大納言・中納言の仕事は?
位階 | 主な呼称 | 役割のイメージ | 高校なら |
1~3位(20人前後?) | 大臣・大納言・中納言 | 内閣の各大臣(=意思決定) | 生徒会 |
大臣はおとどで、読み方は違いますが、いまの内閣の大臣と似ていますね。
はい。その通りです。現在でも政治家は内閣に入り大臣を務めることが大目標ですが、平安期でも1位の太政大臣、2位の左大臣、右大臣、内大臣は大目標であり、古文によく出てくるのは、左大臣、右大臣、内大臣です。
ちなみに序列は、左→右→内ですが、大河ドラマの「光る君へ」でライバルを追い越して関白に近い役目を得ますが、就任時の地位は右大臣のままでした。
※正確には漢字で一位、二位、三位のように書き、三位は「さんみ」と読みます。
官僚 参議・中将・蔵人の仕事は?
位階 | 主な呼称 | 役割のイメージ | 高校なら |
4~6位(800人前後?) | 参議・中将・蔵人 | 官僚(=実務) | 各委員会 |
参議・中将・蔵人は、現代で言えば、上級の国家公務員である「官僚」なんですね。国会中継で大臣が困ったときに、代打で出てくる人ですよね?
はい。その通りです。意思決定を担う大臣に対し、官僚は実務(実際の具体的な仕事)を担当するため、細かい運用や情報に強い特徴を持っています。古文の世界では、3~4位に該当する、参議・中将・蔵人などが、これに当たります。
高校で言えば、大臣・大中納言は生徒会(=意思決定)、参議・中将・蔵人は委員会(=実務)に当たります。例えば生徒会が「美化週間」を決めたとして、実際に校内の清掃を担当するのは美化委員のメンバーです。
県知事 守の仕事は?
位階 | 主な呼称 | 役割のイメージ | 高校なら |
5~6位 | 守(県知事のイメージ) | 役人 | 学級委員(級長) |
守は県知事にあたり、参議・中将・蔵人といった官僚より下なんですね。ちょっと意外でした。
はい。現在は官僚出身の県知事も多く、官僚が目指す役職の1つですが、古文の世界で守は、主に中小の貴族が就く役職で、地下と呼ばれ天皇の居所に入ることは許可されていませんでした。
中将・蔵人は殿上人と呼ばれ、天皇の指示を受けたり、そばで仕事をしたりしていましたし、参議は大臣や大中納言と同様、上達部と呼ばれ天皇とディスカッションする立場でしたので、かなりの差があります。
それでも守を任命されれば、現在の年収に直すと約680万円とも言われ、生活に困るようなことはなかかったと考えられます。
まとめ
位階 | 主な呼称 | 役割のイメージ | 高校なら |
権力者 | 天皇・摂政・関白 | 首相・官房長官 | 校長・教頭 |
1~3位(20人前後?) | 大臣・大納言・中納言 | 内閣の各大臣(=意思決定) | 生徒会 |
4~6位(800人前後?) | 参議・中将・蔵人 | 官僚(=実務) | 各委員会 |
5~6位 | 守(県知事のイメージ) | 役人 | 学級委員(級長) |
大河ドラマ「光る君へ」の重要人物、藤原道長は、わずか16歳で官僚にあたる5位に昇進。22歳で3位、24歳で中納言、30歳でライバルを追い越し右大臣、さらに31歳で左大臣に昇進しています。
このとき実質摂政に近い役割を果たしていましたが、摂政の役職をもらったのは政界引退の近い、51歳でのことでした。
※年齢は数え年。生まれた年を1歳とし以降正月に更新。誕生日の前か後かを意識しなくてもよく、年表でよく用いられる。
恵まれた家柄で、いきなり中納言でも良いようにも思えますが、やはり実務担当の経験があってこそ、政治の適切な意思決定ができますし、参議・中将・蔵人をまとめることもできます。家柄の影響を受けていたとはいえ、理にかなった身分制度だったとも言えます。
※会社員になぞらえた図も置いておきます。
位階 | 主な呼称 | 役割のイメージ | 会社なら |
権力者 | 天皇・摂政・関白 | 首相・官房長官 | 社長・役員 |
1~3位(20人前後?) | 大臣・大納言・中納言 | 内閣の各大臣(=意思決定) | 部長 |
4~6位(800人前後?) | 参議・中将・蔵人 | 官僚(=実務) | 課長・係長 |
5~6位 | 守(県知事のイメージ) | 役人 | 主任 |