
読売新聞は、私立大学と短大のうち、2割弱が経営難(将来的な破綻が懸念)と報じています(2017、2021年)。具体的にどの大学が潰れそうと言えるのか、探ってみました。
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約2割の私大・短大が経営難


読売新聞は、2017年、私立大学・短大のうち、17%にあたる112法人が経営難と報じ、話題となりました(大学名は非公表)。
さらに、2021年4月にも、18.4%にあたる121法人の経営難を報じています。約2割の私大・短大が経営難と考えてよいと言えます。(読売新聞オンライン/画像バックアップ)
破綻する大学は「地方の中小規模大学」「都市部の小規模大学」とされたが、難関大の定員厳格化で一時的に延命していた

2017年、読売新聞は、私大や短大の経営難を報じたさいに、本私立学校振興・共済事業団の見解として、具体的に潰れる可能性がある大学・短大の見分け方を挙げています。
それは、「地方の中小規模大学」「都市部の小規模大学」が特に厳しい、という内容でした。2023年3月に、募集停止を発表した恵泉女学園大学は、都市部の小規模大学にあたります。これに続くように、いくつかの大学や短大が、2023年3~4月に募集停止を発表しました。
募集停止を発表した校名 | 所在地 | 規模(入学定員) |
恵泉女学園大学(3月) | 東京都多摩市(都市部) | 302名(小規模) |
《短大》岐阜聖徳学園大学短期大学部(3月) | 岐阜市(地方) | 150名(小規模) |
神戸海星女子学院大学(4月) | 神戸市(都市部) | 100名程度(小規模) |
《短大》上智大学短期大学部(4月) | 神奈川県秦野市(地方) | 250名(小規模) |
一方、2016~2018年の3年間をかけ、(実質的に人気大学への影響が大きい)入学定員厳格化が段階的に実施され、地方、都市部を問わず、玉突きにより、中堅大学の人気上昇の傾向が見られています。例えば、東京富士大学の場合、入試倍率を見ると、2016年は1.0倍、2017年は1.1倍でしたが、2019年以降、2.9倍、4.4倍、3.4倍と高い水準で推移しています。
結果的に、都市部の難関大の入学者数の影響を受けやすい、「都市部の小規模大学」の経営難の危機は、いったんは落ち着きました。

定員厳格化は、経営が苦しくなってきた大学への、救済措置の側面もあった?
はい。立て直しの猶予期間を意図的に設けたのかも知れません。具体的に、難関大の定員厳格化(2016~2018年)により、志願者が大きく増えた大学(言い換えれば、定員厳格化までは人気が低迷していた大学)は、以下が事例です。
東京富士大学、多摩大学、東洋学園大学、帝京科学大学、デジタルハリウッド大学、東京未来大学、日本文化大学、駿河台大学、東京国際大学、江戸川大学、千葉経済大学、中央学院大学、淑徳大学、千葉商科大学、麗澤大学、横浜商科大学、桐蔭横浜大学、鶴見大学大谷大学、京都先端科学大学、追手門学院大学、大阪学院大学、大阪国際大学、相愛大学、大手前大学、神戸国際大学など。(2010年に対し、2019年の志願者の増加が著しい、首都圏・関西圏の大学)
上記の大学は、定員厳格化の影響もあり、短期的には経営状態が良くなっていると考えられますが、今後も少子化は進むため、大きな改革がないと経営は厳しくなるものと予想されます。
実際に先に挙げた、東京富士大学は、2022年(2022年4月入学)の入試倍率は1.5倍に下がり、元の水準に近づいてしまっています。また、2023年には恵泉女学園大学が、募集停止を発表しました。
一方で、東京富士大学と同じく、定員厳格化の追い風を受けた帝京科学大は、2019年以降、3.4倍、3.0倍、3.6倍と高い入試倍率を維持してきましたが、2022年(同)も2.2倍となり、踏みとどまっていると言えます。

2010年に便利な北千住キャンパスを開設しているし、動物系の学部は、高校生人気が高く、独自性が高いですね。ほかに、医療系も設置しています。
はい。このように、経営基盤を強化している大学は生き残る可能性が高く、各大学の施策(①都心部へのキャンパス展開、②理系、看護医療系学部の設置、③高校生人気、就職率、独自性を満たす学部の設置)も確認する必要があります。
一方、「地方の中小規模大学」は、新型コロナウイルス感染症による地方回帰の追い風を受けたと思われます。今後、都心部へのキャンパス展開という施策は、一部を除いて難しく、上記②③の学部改編や、公立大学化などで、経営基盤を強化してゆくと考えられます。
2010年以降に廃校・募集停止となった私立大学一覧
募集停止年 | 学部 | 都市部だが小規模 | 地方で中小規模 | 理系、看護医療系学部がない | 高校生人気、就職率、独自性を満たす学部がない | |
2010年 | 福岡医療福祉大学 | 人間社会福祉 | 〇 | 〇 | 〇(福祉は就職率は高いが、競合が多く独自性がない) | |
2012年 | 東京女学館大学 | 国際教養 | 〇(入学定員115名) | 〇 | 〇(国際系は競合が多い。コミュニケーション力などを打ち出すが、独自性に欠いた) | |
2013年 | 創造学園大学(群馬) | ソーシャルワーク、想像芸術 | 〇(入学定員280名) | 〇 | 〇(ソーシャルワーク=福祉系。独自性がない) | |
2014年 | 福岡国際大学 | 国際コミュニケーション | 〇(入学定員120名) | 〇 | 〇(国際×コミュニケーションは、一時期流行ったが、やや陳腐化し競合が多い) | |
2014年 | 神戸夙川学院大学 | 観光文化 | 〇 | 〇 | 観光は人気学部だが、理事長の投機の失敗が大きいか(産経)。大学運営が近代的かも1要素。 | |
2019年 | 広島国際学院大学 | 工、情報文化 | 〇 | 広島電機大学から発展した大学で、珍しい工学部を持つ大学の募集停止。地方の経営環境の厳しさか。 | ||
2019年 | 保険医療経営大学(福岡) | 保険医療経営 | 〇(入学定員80名前後) | 〇 | 〇(医療と付くものの、医療系の国家資格と関係のない経営系の学部だった) | |
2020年 | 上野学園大学(東京都) | 音楽 | 〇 | 〇 | 〇(歴史が長い大学が多く、経営体力のある各音大だがが、近年は募集難となっており、業界が地盤沈下) | |
2023年 | 恵泉女学園大学(東京都多摩市) | 人文、人間社会 | 〇(入学定員302名名) | 〇 | 〇(人文系の昔ながらの女子大であり、存在意義は少なくなっている) | |
2023年 | 神戸海星女子学院大学(神戸市) | 英語観光、心理子ども | 〇(入学定員100名程度) | 〇 | 〇(英語、幼児教育は、競合が多いジャンル) |
まとめ
① 経営環境が厳しい(潰れやすい)大学・短大
「都市部の小規模大学」「地方の中小規模大学」
② 該当するの大学・短大のチェックポイント
- 「都市部の小規模大学」 …都会(東京都なら23区内)の利便性が高い場所にキャンパスを設置しているか。理系、看護・医療系、「高校生人気、就職率、独自性」を満たす学部の設置を設置しているか。
- 「地方の中小規模大学」 …理系、看護・医療系、「高校生人気、就職率、独自性」を満たす学部の設置を設置しているか。公立大学化など、地方自治体との連携を進めているか。
※公立大学化された大学のリスト
長岡造形大学(新潟県)、長野大学(長野県)、公立諏訪東京理科大学(長野県)、高知工科大学(高知県)、静岡文化芸術大学(静岡県)、公立小松大学(石川県)、福知山公立大学(京都府)、山陽小野田市立山口東京理科大学(山口県)、公立鳥取環境大学(鳥取県)、名桜大学(沖縄県)
※公立化を要請したが自治体が慎重な大学(一例)
旭川大学、新潟産業大学
「地方の中小規模大学」「都市部の小規模大学」の調べ方

「地方の中小規模大学」「都市部の小規模大学」の経営が特に厳しいことが、改めてクローズアップされた形です。
大規模大学、中規模大学、小規模大学の定義については、調査した範囲でははっきりしませんでしたが、旺文社が次のような定義を用いています。
- 小規模大学 …入学定員800人未満
- 中規模大学 …入学定員800人以上3000人未満
- 大規模大学 …入学定員3000人以上
すると、経営環境が厳しくなる可能性がある大学は、以下のように絞られます。
- 都市部で入学定員800人未満の大学。
- 地方で入学定員3000人未満の大学。
募集停止を発表した恵泉女学園は、最新の募集定員が、290人でした。
入学定員と偏差値は、旺文社のパスナビというサイトで調べると便利です。例えばGoogle検索で、「聖路加国際看護大学 パスナビ」と調べると、次のようなデータが掲示されます。

定員が分かり、偏差値も調べることができます。
聖路加国際大学は、入学定員が100名しかなく、経営の難しさが報じられた「都市部の小規模大学」にあたります(募集停止の恵泉女学園よりもずっと少ない定員です)。
しかし、同大学は、看護系の大学では、昔からの名門であり、慶應義塾に次ぐレベルの人気を誇っており、経営破綻の可能性は少ないでしょう。聖路加国際大学の偏差値は、60.0前後と高く、これも1つの指標になりそうです。また、東京都中央区に立地しています。
ポイント 「都市部の小規模大学」 …都会(東京都なら23区内)の利便性が高い場所にキャンパスを設置しているか。理系、看護・医療系、「高校生人気、就職率、独自性」を満たす学部の設置を設置しているか。

東京都八王子市にある日本文化大は、定員は200人、偏差値は37.5と表示されます(2022年12月現在)。しかも、日本文化大は、東京都心から離れた八王子地区にある単科大学です。
しかし、少子化を見越し、公務員である警察官に合格しやすい大学を打ち出しており、この地区の高校教員のなかでは有名です。実際に過去6年間は、200人の入学者定員に対し、以下の人数の出願がありました(パスナビで分かります)。
- 2022年 404人
- 2021年 412人
- 2020年 620人
- 2019年 731人
- 2018年 418人 入学定員厳格化(全国)
- 2017年 269名 入学定員厳格化(全国)、新校舎完成(日本文化大)
- 2016年 238名 入学定員厳格化(全国)
- 2015年 249名
2022年度入試では、定員200名、合格者316人(他大に流れる受験生もいるため通じ多めに合格させる)に対し、志願者は404人となり、志願倍率は1.2倍と、決して順風満帆とは言えないものの、一定の存在感を維持しています。
ポイント 都会(東京都なら23区内)の利便性が高い場所にキャンパスを設置しているか。理系、看護・医療系、「高校生人気、就職率、独自性」を満たす学部の設置を設置しているか。
『危ない大学 消える大学』によれば

現在、プレミアつきの書籍となっている『危ない大学 消える大学』は、偏差値や定員充足率から、危ない大学・消える大学の候補校として以下を挙げているようです。
(この章はインターネットからの転載です。恐れ入りますが正規のデータは、必ず書籍をご覧ください)。
札幌大学、札幌大谷大学、札幌学院大学、札幌国際大学、星槎道都大学、苫小牧駒澤大学、函館大学、稚内北星学園大学、青森大学、八戸工業大学、弘前学院大学、富士大学、石巻専修大学、東北生活文化大学、東北文化学園大学、ノースアジア大学、郡山女子大学、東日本国際大学、福島学院大学、筑波学院大学、足利大学、宇都宮共和大学、関東学園大学、浦和大学、武蔵野学院大学、愛国学園大学、川村学園女子大学、聖徳大学、千葉科学大学、嘉悦大学、恵泉女学園大学、杉野服飾大学、東京純心大学、東京富士大学、松蔭大学、新潟経営大学、新潟工科大学、高岡法科大学、北陸大学、山梨英和大学、清泉女学院大学、岐阜女子大学、東海学院大学、静岡英和学院大学、浜松学院大学、愛知学泉大学、愛知工科大学、愛知文教大学、岡崎女子大学、星城大学、名古屋産業大学、人間環境大学、京都ノートルダム女子大学、平安女学院大学、大阪観光大学、大阪人間科学大学、帝塚山学院大学、東大阪大学、甲子園大学、神戸医療福祉大学、神戸山手大学、姫路獨協大学、兵庫大学、岡山学院大学、吉備国際大学、山陽学園大学、中国学園大学、広島都市学園大学、広島文教大学、至誠館大学、東亜大学、徳島文理大学、四国学院大学、九州情報大学、日本経済大学、長崎ウエスレヤン大学、九州保健福祉大学、宮崎国際大学、第一工業大学
上記は1つのデータに過ぎませんので、そのまま信じ込むことはせず、「大学の今後の見通し チェックポイント」も参考にして頂き、データや評判をチェックしてみてください。大学の満足度は、その高校生がその大学を生かし、優良な企業や組織への就職を成功させることで決まります。

上に名前が挙がった大学も、状況の変化で人気を回復した大学もあり、就活に成功した卒業生も多くいます。決めつけずに、多面的に判断することが重要です。

予備校講師経験者が、全国80の高校での指導実績をもとに説明しているため、最新・最善の合格対策が可能です!
専門学校の経営状況は?


受験する大学の経営に不安がある場合、専門学校と比べたいという方もいるかも知れません。
専門学校は、大学・短大に比べ、国のバックアップは限られますが、学科やコースの新設や改編が容易で、社会の変化に対応しやすいという利点もあります。入試の状況(志願倍率)が公表されておらず、大学・短大に比べ経営状況は推し量りにくいですが、次の要素をチェックしてい見てください。
安心できる専門学校の目安
就職率が100%に近い分野を中心に運営している …看護、理学・作業療法、介護福祉、自動車整備、保育・幼稚園教諭など、就職率が100%に近い分野の専門学校は、比較的安心できます。一定の高校生人気を維持しやすいからです。
校舎の設備更新がひんぱんである …就職率が100%に近い分野以外の学校は、専門学校間で経営力に差が出ます。入試の状況(志願倍率、入学締め切り時期)が非公表のため、実態はつかみにくいですが、人気がある専門学校は、校舎の設備更新がひんぱんであることが多いです。校舎のエントランスや教室が適度に新しく清潔で、機材がよく更新されている学校(例 日本工学院専門学校など)は、経営状態が良いと推察できます。
在籍(卒業)高校の進路指導室に尋ねる …高校の進路指導部では、専門学校の経営状況を把握していることがあります。高校の進路室を訪ね、担当の先生に尋ねてみることも有効です。
コメント
聖路加国際大学は看護の名門です。立地とか偏差値とか以前の問題です。読むに値しない記事だと思いました。。
コメントありがとうございます。
聖路加は、筆者の塾講師時代にも合格者がおり、サイト立ち上げ以前より名門と了承しています。ただ、全国的に知名度が高い訳ではなく、単科大学であることが、経営の良し悪しに結びつく訳ではないという事例として掲載しています。
しかしながら、都内では病院自体の知名度が高く、都内の方が読んだ場合に、事例として相応しくない(ピンとくる事例でない)可能性もあり、次回改訂時には差し替えも検討します。
同時に、安易に「経営が盤石な単科大学」を指名したとして、そこに何かあった場合の責任も大きいため、絶対安全圏と思える聖路加を事例に取っている部分もご理解ください。
※その意味では日本文化大を例示している点も改訂の余地はありますが、こちらは一貫して「募集状況が盤石ではない」という表現を入れています。
また、現時点で「昔からの名門であり、」の注釈を追加しました。これは当然のことであり、筆者の側でも書き漏らしのようになっておりました。また、偏差値については、偏差値から聖路加を見積もった訳ではなく、人気があるから偏差値が高く、偏差値も目安にはなるという考え方に基づいたものです。